2017年10月09日

若年者就業の経済学(太田聰一,2010)②


備忘録(p98-100)


 世代効果の研究の中で主要な位置を占めるのが、賃金水準への影響である。賃金水準は経済厚生の端的な指標であり、学卒時の好不況の長期的な影響を総合的に把握するうえできわめて有用である。それゆえ、1990年代後半から比較的多くの研究がなされている。
 
 初期の研究では、データとして「賃金構造基本統計調査」を用いてきた。そこでは主に正社員の賃金が把握される。1990年代半ばまでの男性労働者のデータを用いた研究からは、①提唱期に就職した世代は、高度成長期に就職した世代に比べて低賃金い甘んじる傾向があり(玄田1997)、②高校卒の卒業年の失業率の上昇は実質賃金の低下をもたらし、主要企業雇用人員過不足判断指数の悪化は大卒の実質賃金の低下をもたらす(大竹・猪木1997)、ということが分かっている。

 これらの研究は、二つの側面で重要である。ひとつは、正社員になった人にとっても、不況期に学校を卒業することは賃金面でのダメージをもたらすことを明らかにした点である。よって次に明らかにすべきはその発生メカニズムとなる。

 学卒時に不況に直面した世代は、規模の大きな企業に就職することができにくくなるかもしれない。就職する企業規模が小さくなれば、賃金水準が低下してしまうので、そうしたルートで賃金の世代効果が生じる可能性がある。産業や職種でも同様な「割り当て」現象が発生するかもしれない。あるいは、もしも不況期に就職する人の少ない部分が、自分の適性と異なる仕事に就かざるを得ず、マッチングの低さが賃金の伸びの低迷をもたらすのであれば、不況期に学校を卒業することはやはり労働者にとって不利に働く。

 もう一つは、学卒時の労働市場の影響は一九九〇年代以降の不況期のみに特有の現象ではないという点である。いわゆる「就職氷河期」よりも前から、不況期に学校を卒業した世代は賃金面で不利な状況に陥っていた。ただしその時期には不況期に卒業したからといって長い期間にわたって無業に陥ったり、非正社員として就業したりするようなケースは少なかったと思われる。

 これらの研究に続いて、「就職氷河期」が若年層の賃金に及ぼした効果の分析も活発化した。大きな特徴としては、無業や非正社員を含むデータを利用することで、賃金あるいは収入低下のメカニズムをより詳細に明らかにしようとした点が挙げられる。

 「労働力調査特別調査」と「労働力調査」の個票データ(1986-2005)を分析したgenda,kondo and ohta(2010)によれば、中卒及び高卒では、卒業年の失業率が高かった世代ほど、少なくともその後12年にわたって実質年収が低水準になることが判明した。卒業年の失業率が1ポイント高くなると、中学・高校卒のグループでは、その後12年以上にわたって実質年収は5-7%程度持続的に低くなる。

 一方、短大・高専訴追状のグループでは、中学・高校卒グループほどの持続的な年収低下は見られなかった。具体的には、短大・高専卒以上では、学卒時の失業率が1ポイント上昇したときの実質年収の減少は2から5%程度であり、経験年数を経ると共に影響が弱まっていく。まとめると、学卒時の不況は、学歴が低い若年の実質年収を長い期間にわたって低下させることが分かった。




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