2017年10月11日

若年者就業の経済学(太田聰一,2010)③


備忘録 p229-230

 厚生労働省による2009年度「能力開発基本調査」によれば、過去1年間でoff-jtまたは計画的なojtを実施した事業所割合は、正社員に対しては73.8%に達したが、非正社員に対しては41.8%にすぎなかった。ただし、正社員と非正社員では、勤めている会社の規模や産業の平均値も違うし、個人の年齢や学歴の傾向も違うので、それらをコントロールしても雇用形態によって企業内訓練の実施に違いが生じるかを検討しなければならない。

 そこで労働政策研究・研修機構(2009a=「非正社員の企業内訓練についての分析-平成18年度能力開発基本調査の特別集計から-」)は、2006年度の「能力開発基本調査」の個票を用いて、さまざまな企業や個人の属性をコントロールした推計を行ったが、正社員の方がoff-jt受講確率が高いことを見出した。結局、フリーターなどの若年非正社員は、正社員に比べて能力開発の機会が小さくなっており、そのことが将来的な賃金の伸びを期待しにくい原因となっている。


p241-243
 
 企業は新卒採用に際してコミュニケーション能力や協調性、物事に対する積極性などを重視しており、学力を最重要な要素と位置づけている企業はそれほど多くない。また、労働者の生産性は、これまで述べてきたように、ojtを中心とした企業内訓練で涵養されるはずである。よって若者の学力水準の低下は企業内訓練によって十分に補言えるものであるし、それほど深刻な問題ではないかという議論があり得る。
 しかし、知的スキルの特質を考慮すれば、事はそう単純ではないことがわかる。精算職場に降り立って技能形成の実態を調べた小池和男の一連の業績は、現代の精算職場で求められている技能は「匠の技」よりもむしろ「推理の技」であることを明らかにした。

 筒井(2005)は学校教育で涵養されるような「認知的スキル」が作業能率に直接的に影響を及ぼすことを指摘している。そおで示された管工事・水道施設工事会社(零細企業)の現業職の事例では、入職段階の従業員には「穴を掘ったり、管をつないだり」という「身体的スキル」が求められるが、初期段階を過ぎると現場作業であっても図面を描いたり、理解する能力、すなわち「認知的スキル」が求められるようになる。そして労働者がそうしたスキルを持っているかどうかによって、作業の能率が大きく異なるという。

 結局、学校で蓄積される基礎学力は、その上に企業内訓練による能力向上を開花させるための土台であり、その弱体化は企業にとって大きなダメージとなりうる。経済学的な用語でいえば、学校教育で涵養される「一般的スキル」と企業内の訓練で身に付ける「企業特殊的スキル」は補完的な性格であり、「一般的スキル」が低下すれば、企業内での訓練効率性が低下する懸念が生じる。




同じカテゴリー(書籍備忘録)の記事画像
京大公共政策大学院「厚生労働政策」発表資料
非正規雇用のキャリア形成(小杉礼子、原ひろみ,2011)
同じカテゴリー(書籍備忘録)の記事
 「若者のキャリア形成」(OECD編著,2015) (2017-11-22 11:58)
 「実践知」(金井壽宏・楠見孝編著,2012) (2017-11-22 11:37)
 「批判的思考力を育むー学士力と社会人基礎力の基盤形成」(楠見孝、子安増生、道田泰司編,2011) (2017-11-14 23:00)
 「仕事のスキル 自分を活かし、職場を変える」(小口孝司、楠見孝、今井芳昭編著,2009) (2017-11-14 22:29)
 不平等を生み出すもの(レスター・C・サロー著、小池和男・脇坂明訳,1984) (2017-11-09 21:22)
 京大公共政策大学院「厚生労働政策」発表資料 (2017-11-09 21:09)

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。