2017年10月11日

年者就業の経済学(太田聰一,2010)④


備忘録

p271
 このような制度(キャリア形成促進助成金に基づく有期実習型訓練や、実践型人材養成システム)には幾つかの複合的な効果がある。まず、企業に対しては、訓練への助成を行って、若年者の採用に伴う経済的なデメリットを抑制することで、経済全体の求人を増やすという効果を期待できる。また、訓練は確実に行われるので、訓練実施企業で採用されなくとも若年者の能力開発となる。とりわけ企業による実習を重視したプログラムは、従来の公的な職業訓練よりも社会で通用するスキルの効率的な習得に役立つ立つものと思われる。

p287
 まず信頼しうるデータを確保することが必要になる。プログラム参加者の様々な属性と、プログラム参加前後の賃金や雇用面の情報は必須のデータといえる。プログラムが成功して就職できたように見えても、雇用の質が悪く、就職後しらばくして離職したりすると、それは成功したプログラムであるとはいいがたい。そうした点を把握するためには、プログラム参加者に対して継続的な調査を実施しなければならない。
 プログラムの対象者と同等の属性を持つ非参加者についても、同様のデータを集めて参加者のデータと比較することで、より正確な分析が可能となる。いずれにせよ、精密な測定を目指すためには、専門家によるアドバイスに基づいた調査票の立案と実施方法の選択が必要となろう。  

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2017年10月11日

若年者就業の経済学(太田聰一,2010)③


備忘録 p229-230

 厚生労働省による2009年度「能力開発基本調査」によれば、過去1年間でoff-jtまたは計画的なojtを実施した事業所割合は、正社員に対しては73.8%に達したが、非正社員に対しては41.8%にすぎなかった。ただし、正社員と非正社員では、勤めている会社の規模や産業の平均値も違うし、個人の年齢や学歴の傾向も違うので、それらをコントロールしても雇用形態によって企業内訓練の実施に違いが生じるかを検討しなければならない。

 そこで労働政策研究・研修機構(2009a=「非正社員の企業内訓練についての分析-平成18年度能力開発基本調査の特別集計から-」)は、2006年度の「能力開発基本調査」の個票を用いて、さまざまな企業や個人の属性をコントロールした推計を行ったが、正社員の方がoff-jt受講確率が高いことを見出した。結局、フリーターなどの若年非正社員は、正社員に比べて能力開発の機会が小さくなっており、そのことが将来的な賃金の伸びを期待しにくい原因となっている。


p241-243
 
 企業は新卒採用に際してコミュニケーション能力や協調性、物事に対する積極性などを重視しており、学力を最重要な要素と位置づけている企業はそれほど多くない。また、労働者の生産性は、これまで述べてきたように、ojtを中心とした企業内訓練で涵養されるはずである。よって若者の学力水準の低下は企業内訓練によって十分に補言えるものであるし、それほど深刻な問題ではないかという議論があり得る。
 しかし、知的スキルの特質を考慮すれば、事はそう単純ではないことがわかる。精算職場に降り立って技能形成の実態を調べた小池和男の一連の業績は、現代の精算職場で求められている技能は「匠の技」よりもむしろ「推理の技」であることを明らかにした。

 筒井(2005)は学校教育で涵養されるような「認知的スキル」が作業能率に直接的に影響を及ぼすことを指摘している。そおで示された管工事・水道施設工事会社(零細企業)の現業職の事例では、入職段階の従業員には「穴を掘ったり、管をつないだり」という「身体的スキル」が求められるが、初期段階を過ぎると現場作業であっても図面を描いたり、理解する能力、すなわち「認知的スキル」が求められるようになる。そして労働者がそうしたスキルを持っているかどうかによって、作業の能率が大きく異なるという。

 結局、学校で蓄積される基礎学力は、その上に企業内訓練による能力向上を開花させるための土台であり、その弱体化は企業にとって大きなダメージとなりうる。経済学的な用語でいえば、学校教育で涵養される「一般的スキル」と企業内の訓練で身に付ける「企業特殊的スキル」は補完的な性格であり、「一般的スキル」が低下すれば、企業内での訓練効率性が低下する懸念が生じる。


  

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2017年10月09日

若年者就業の経済学(太田聰一,2010)②


備忘録(p98-100)


 世代効果の研究の中で主要な位置を占めるのが、賃金水準への影響である。賃金水準は経済厚生の端的な指標であり、学卒時の好不況の長期的な影響を総合的に把握するうえできわめて有用である。それゆえ、1990年代後半から比較的多くの研究がなされている。
 
 初期の研究では、データとして「賃金構造基本統計調査」を用いてきた。そこでは主に正社員の賃金が把握される。1990年代半ばまでの男性労働者のデータを用いた研究からは、①提唱期に就職した世代は、高度成長期に就職した世代に比べて低賃金い甘んじる傾向があり(玄田1997)、②高校卒の卒業年の失業率の上昇は実質賃金の低下をもたらし、主要企業雇用人員過不足判断指数の悪化は大卒の実質賃金の低下をもたらす(大竹・猪木1997)、ということが分かっている。

 これらの研究は、二つの側面で重要である。ひとつは、正社員になった人にとっても、不況期に学校を卒業することは賃金面でのダメージをもたらすことを明らかにした点である。よって次に明らかにすべきはその発生メカニズムとなる。

 学卒時に不況に直面した世代は、規模の大きな企業に就職することができにくくなるかもしれない。就職する企業規模が小さくなれば、賃金水準が低下してしまうので、そうしたルートで賃金の世代効果が生じる可能性がある。産業や職種でも同様な「割り当て」現象が発生するかもしれない。あるいは、もしも不況期に就職する人の少ない部分が、自分の適性と異なる仕事に就かざるを得ず、マッチングの低さが賃金の伸びの低迷をもたらすのであれば、不況期に学校を卒業することはやはり労働者にとって不利に働く。

 もう一つは、学卒時の労働市場の影響は一九九〇年代以降の不況期のみに特有の現象ではないという点である。いわゆる「就職氷河期」よりも前から、不況期に学校を卒業した世代は賃金面で不利な状況に陥っていた。ただしその時期には不況期に卒業したからといって長い期間にわたって無業に陥ったり、非正社員として就業したりするようなケースは少なかったと思われる。

 これらの研究に続いて、「就職氷河期」が若年層の賃金に及ぼした効果の分析も活発化した。大きな特徴としては、無業や非正社員を含むデータを利用することで、賃金あるいは収入低下のメカニズムをより詳細に明らかにしようとした点が挙げられる。

 「労働力調査特別調査」と「労働力調査」の個票データ(1986-2005)を分析したgenda,kondo and ohta(2010)によれば、中卒及び高卒では、卒業年の失業率が高かった世代ほど、少なくともその後12年にわたって実質年収が低水準になることが判明した。卒業年の失業率が1ポイント高くなると、中学・高校卒のグループでは、その後12年以上にわたって実質年収は5-7%程度持続的に低くなる。

 一方、短大・高専訴追状のグループでは、中学・高校卒グループほどの持続的な年収低下は見られなかった。具体的には、短大・高専卒以上では、学卒時の失業率が1ポイント上昇したときの実質年収の減少は2から5%程度であり、経験年数を経ると共に影響が弱まっていく。まとめると、学卒時の不況は、学歴が低い若年の実質年収を長い期間にわたって低下させることが分かった。


  

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2017年10月09日

若年者就業の経済学(太田聰一,2010)


 
備忘録(p136-137)

 最も重要なポイントとして、現在の経済状況の悪化に出口を見出しにくくなると、企業は若年採用を大きく減少させてもおかしくない。なぜならば、その倍には企業は長期的な企業規模の縮小を覚悟しなければならないので、将来の基幹となる人材も少なくて済むようになるからである。1990年代以降に「氷河期世代」が登場した背景には、企業が長期的な成長や存続に自信を失ったために、将来の稼ぎ手の採用までもためらったことがあるかもしれない。

 筆者は、このような理解が1990年代以降の労働市場を理解する重要な鍵であると考えている。バブル崩壊以降の日本経済は、未曽有の低成長に加えて、将来の不確実性の増大に直面した。これは日本経済が資産デフレという新しい事態への対応に時間がかかっただけでなく、中国をはじめとするアジア諸国の経済的台頭が企業の競争環境を一変させたことも大きな影響を及ぼしたと思われる。その結果として、不況が長引くにつれて企業は自社の将来についての自信を大きく失うことになった。

 こうした企業を取り巻く状況の変化は、雇用面にも大きなインパクトを及ぼした。従来、不況期の日本企業は労働時間の短縮を大きく行う反面、雇用水準は大きく削減させなかった。(労働保蔵と言われる)。不況はいずれ回復するので、そのときに人材不足を招かないように人員はキープするという人事方針をとっていたためである。

 ところがバブル崩壊後多くの日本企業は自社の長期的な存続にすら自信を失ってしまい、将来への投資であるはずの若年正社員採用まで大幅に削減するようになった。その一方で、不確実性の高まりに対応して雇用調整の柔軟性を確保するために、非正社員のシェアを大きく増やしていった。そのために新卒者で正社員採用されなかった者が、大量にフリーターになるという現象が生じたと言える。

  

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2017年10月06日

「新たな就職氷河期世代を生まないために」(連合総研,2016)②


■備忘録 p29~p30

 雇用形態のシェアの変化は、ほとんどの学歴・年齢階級の区分でマイナスに寄与していることが分かる。現実にも、正社員比率が低下し、非正社員比率が上昇することで平均賃金額が減少することは自明である。

 主に就職氷河期世代の人々に特徴的なのは、「正社員・正職員の給与額の変化」がマイナスに寄与していることである。これがまいなすにきよしているのは就職氷河期世代の人々を除けば、高専・短大卒の40~44歳のみであり、いずれにしてもいわゆる就職氷河期に新卒就職した世代の周辺のみで、「正社員・正職員の給与額の変化」がマイナスに寄与していることである。つまり、この世代にだけ正社員・正職員の賃金額の減少が見られ、それがダイレクトに全体の賃金額の減少につながっており、特に賃金額の減少が顕著だった大学・大学院卒の40~44歳で大きくマイナスに寄与していることが分かる。


■備忘録 p40

 就職氷河期世代の男性について、特に職場での指導が停滞していた事実が確認できる。指導を「あまり受けなかった割合」が、プレ就職氷河期世代では18.3%、ポスト就職氷河期世代では18.2%にとどまるのに対し、前期就職氷河期世代では23.6%、後期就職氷河期世代では24.2%と高くなっている。

 プレ就職氷河期世代の男性では、指導を「ある程度受けた」が51.7%と高い一方、後期就職氷河期世代では「十分受けた」が17.4%と、他の世代に比べて相当程度低い。指導を「全く受けなかった」割合も、前期・後期の就職氷河期男性で高くなるなど、指導を受けた経験の乏しさが、就職氷河期の特徴となっている。



  

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