2019年03月10日

入管法改正で変わる組織マネジメントやキャリア開発のあり方



改正出入国管理法の論点

 本年4月から施行される改正出入国管理法。「特定技能1種・2種」という在留資格を新設することなどによって、一部産業で深刻化する人手不足に対応するため一定の専門性・技能を有した即戦力となる外国人を受け入れていくことになる。外国人による単純労働やミドル人材を実質的に認める大幅な政策転換である。
 この間、論点となってきたのは、①現制度での外国人労働者にとっての劣悪な生活・労働環境をどのように改善すべきか、②日本人の雇用機会の喪失や処遇低下にどのような影響がありどのように対応すべきか、③外国人差別の解消や治安悪化に対する懸念をどのように解消していくべきかという問題などである。
 近年、少子化を国家課題として捉える諸外国において、すでに外国人労働者を積極的に受け入れる取組が進められており、少子高齢化の課題先進国である日本においても外国人労働者の受入れは必要不可欠と言える。

法改正によってどのような変化や課題が生じるのか

 法改正により外国人労働者が増えるならば、どのような変化や課題が生じるだろうか。
外国人労働者がより身近になることは確実である。また実質的に“移民”と言える「特定技能2種」で就労する人が増加することが見込まれる2020年代半ば以降は、対象業種の緩和も検討され社会の多くの場面で外国人と共にする社会が到来するはずである。
 そうした変化の中で、まず社会で生じる課題は多文化共生社会を推進する取組の必要性である。「特定技能」は一定水準の日本語能力を有していることを前提としているものの、行政・生活情報などは専門用語も多く現状では分かりづらい。多言語対応が必要になると共に総合的な相談窓口の必要性など生じてくるはずである。
 次に企業で生じる課題は、すでに多くの企業が働き方改革に着手しているものの今後はより一層、外国人労働者を含めた多様な人材が安心・安全に働き、そして能力発揮できる環境を整備することに留まらず、多様な人材を戦力化すべく役割設計や人材育成をどのように行っていくべきかという課題がこれまで以上に生じてくると考える。マネジャーにとっては職場における関係の質にも考慮しながら、外国人労働者をはじめとした多様な立場の労働者をいかにマネジメントすべきかという課題認識が高まると考える。
 個人とりわけ労働者にとっては、外国人労働者と共に働くための意識の見直しや、労働市場での競合が想定される層にとっては能力開発の必要性が高まることである。今後5年間での受け入れ人数を約34.5万人に限定するなどして対策が講じられるものの、供給側の増大によって非正規雇用者が多く従事している職種の処遇向上が思ったように進まないことも想定されうるからである。


課題にいかに対応し、変化をどのように生かすべきか
 こうした変化や課題に社会や企業、個人はいかに対応すべきだろうか。
 社会政策に関しては政府が講じている「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に頼るとして、本稿では企業と個人はどのように対応すべきかを簡潔にまとめたい。
 まずこの度の入管法改正に伴う変化を肯定的に捉える基本姿勢がなにより重要ではないかと考える。変化をどのように生かしていくべきかという観点である。
 企業としては外国人労働者を「戦力」としてどのように活用すべきかが重要になってくる。中小企業や小規模事業者にとっては労働環境の整備や社保加入を含めたコンプライアンスの推進、生産性向上、ダイバーシティの高次化が社会的にも要請されるはずであろうし、また中堅規模以上の企業にとっては、これまでの最長5年間という技能実習期間は人材育成に対する投資意欲の阻害要因になっていたと考えられるが、今後は「特定技能2種」は期間の定めがないことを踏まえると「単純労働」に留まらず、企業活動のイノベーションにつながる「知的労働」も見据えて中長期的な投資効果を見据えた人事戦略がカギとなってくる。
 生産性向上にも統計的有意性が確認されているダイバーシティ&インクルージョン施策の推進に外国人労働者をはじめとした多様な立場、価値観を有する人材を活用し、生産可能性フロンティアを外縁に拡張する好機とすべきである。そのためには外国人労働者も含めた多様な人材が職場で活躍できるようなジョブ・アサイメントのあり方を人事や経営層、外部機関とも連携しながら社会や会社単位で構築し取り組んでいかなければならない。
 最後に主に非正規雇用などで働くキャリア形成機会に恵まれなかった層(個人的にはポスト就職氷河期世代を注視している)にとっては、これまでの職務上の経験が少ないことを補うべく、ビジネススキルに応用可能な実践的な社会活動経験(例えば、NPOや学習・体験サークル、子育て等)への参画を進めるなどして労働市場における差別化に主体的に取り組むべきと考える。合わせて公的職業訓練などのキャリア形成支援制度や、ジョブマッチングのあり方に関しても職務外経験も評価したものにするなどアップデートが検討されるべきと考える。


情熱を胸にICON179






Posted by 藤井哲也 at 10:27│Comments(0)
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