2020年05月18日

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(3)

本記事は、時事通信社が発行する行政機関向け雑誌「地方行政」に3回にわたり掲載された記事を基に、若干の加筆修正を行った上で再編集したものです。
寄稿した原文記事については、PublicLabに掲載頂いておりますので、そちらをご覧ください。なお原文記事の掲載時期は、新型コロナウィルス感染拡大に伴う緊急事態宣言発出前の3月中旬から4月上旬です。


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11.政策提言

就職氷河期世代の現状や先進事例、課題などを取り上げてきました。本年から集中支援が始まる就職氷河期世代支援について、そうした課題等を踏まえた政策提言を行います。

提言① 書類選考を必要としないマッチング機会の創出
就職氷河期世代で不本意に非正規を継続してきた方や無業者にとって、一般的には就職に有利になる職務経歴を見掛けることはあまりありません。そこで、書類選考を必要としない人物重視のマッチング機会を設けることを提言します。関東地方の自治体での合同企業説明会(合説)で、民間事業者が中間に入り応募を希望する企業へ無料職業紹介を行い大きな成果を挙げた実績や、関西地方の自治体でいわゆる「逆合説」を行い、求職者側がブースを持ち企業が回り、職務経歴に依らない、自身がPRしたいことを述べる形式のイベントを開催し、話題になった事例が見られます。書類選考がないというコンセプトで、求職者側にとってもマッチングイベントへの参加ハードルは低くなります(「支援事業者へのインタビュー」参照)。
また、マッチングの際にはカウンセラーなどのリコメンド(推薦)があると支援対象者にとっても、また企業にとっても安心です。ハイクラス人材の採用ではリファレンスサービス(採用しようとする人材をよく知る方からの参照情報の利用)が近年よく用いられています。この考え方を就職氷河期世代支援にも活用したいところです。

提言② 職務経験にとらわれないジョブカウンセリングと職能評価の推進
ジョブスキルは仕事以外の経験からも身に付けられることが分かってきました。越境的学習効果といわれ、例えば子育てに関わることで、マルチタスク管理力や対人コミュニケーション力などマネジメントに求められるスキルを獲得できたり、災害ボランティアの経験を積むことで、リスク管理力や判断力を身に付けられたりします。ジョブカードは職務経験を中心に記載するものとなっています。そのため、職務外の経験も記載・評価する第二のジョブカードのようなシートを独自に作成することを提言します。職務上の経験からは就労支援で有利となる事柄が少なくても、それ以外の経験をキャリアカウンセラーが丁寧にヒアリングする中で、発揮が期待される職能を見つけられるはずです。そうしたことを記載するシートを作成し、求人企業や職場体験の受け入れ企業へのPRに活用することができるはずです。

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(3)

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(3)


提言③ 潜在的な求職者を掘り起こすイベントの実施
合説やミニ合説、セミナーなどのイベントは、支援対象者にとって敷居が高いと感じることもあります。筆者が知る限り、行政が開催している〝いかにも感〟があるイベントは、「ダサくて参加できない」と考えている方が相当数います。古風なイベントではなく、2020年代の現代的な面白い、スマートなイベントに転換していかないといけません。関西のある自治体では新型コロナウイルスの影響で開催延期となりましたが、会場に設置したダーツで訪問先企業を決める、ゲーム性のあるマッチングイベントを企画していました。その他、ラジオDJを招いてどうすればその人のようにうまく話ができるかを学ぶセミナーや、トランプやゲームなどのツールを用いて楽しみながらキャリアプラン作りや業界研究ができるセミナーなどを実施している自治体もあります。イベントを案内するチラシやホームページのデザインにも、意識して注意を払いたいところです。

提言④ 企業や経済団体に対する就職氷河期世代採用・育成のノウハウ提供、事例共有
本人にとっても、企業にとっても就職は入り口にすぎません。組織の中で期待される役割を果たしていくことも求められます。就職氷河期世代をどのようにマネジメント、育成すればよいのかという情報やノウハウはまだ社会的にあまり共有されておらず、就職氷河期世代の採用に躊躇する要因にもなっています。せっかく採用しても活躍できなかったりすぐに退職してしまったりするようでは本人、企業双方にとってマイナスです。
そこで、企業向けのセミナーなどを開催し、就職氷河期世代の採用・活用の事例紹介、拡充された各種助成金などの施策紹介、職場体験の協力企業による講話などを通じて、事業の普及啓発に努めることを提言します。企業開拓員やコーディネーターには、できればキャリア形成に苦労してきた当事者世代を充てたいところです。企業人事担当者への説得力が違うと考えます。

提言⑤ 隣接都道府県・市町村との連携の推進
従来の就労支援でも県域を越えた自治体間、または隣接市町村との連携が求められてきました。今回の就職氷河期世代支援においても基本的には都道府県単位の支援プラットフォームを形成し、対策を講じていくことになります。就職氷河期世代支援に限ったことではありませんが、生活支援・就労支援において、隣接都道府県、市町村との連携の推進を図る機会・場が設けられることが好ましいと考えます。

提言⑥ 地域就職氷河期世代支援加速化交付金の有効活用
事業費の75%が交付金によって措置される「地域就職氷河期世代支援加速化交付金」が当初30億円という規模で創設されました。この交付金の詳細が明らかになったのが本年2月ごろとなり、2020年度当初予算の編成には間に合わなかった自治体が多かったと聞き及びます。しかし、年度途中に予算枠内での財源組み替えを行えば、余剰金を活用した就職氷河期世代支援の拡充を行うことができるのではないでしょうか。
国はこの新型交付金を活用した事業として、「地域における就職氷河期世代の実態調査・ニーズ調査」や、「就労活動のネックになる経済的負担の軽減(就職活動に要する交通費支給や、奨学金返還支援等)」などを一例に挙げています(図表1)。幅広く活用することができる財源でもあり、筆者としては以下に挙げる事業等も正社員転換・待遇改善に資すると考えます。

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(3)



12.結び

就職氷河期世代支援は、2020年度から3年間を集中支援期間として取り組まれることとなっています。

この世代が老齢期に入る2040年代に、この問題はより顕在化してくるでしょう。国や自治体は、多額の社会保障経費を支出しなければならないと多くの機関や識者が推測しています。将来起きる大きな問題を予防的に解決できるとすれば、この3年間をおいて他に時期はありません。この世代は現下のところ40歳前後のキャリアの転機にあり、年齢的に今後のキャリア形成を考えると残された時間はあまりありません。

しかし、こうした最中に新型コロナウィルス感染拡大により、雇用環境や働き方に大きく影響が出ています。
コロナショックを超えて、再び就職氷河期が生まれないように、そして現にいる就職氷河期世代のための支援が1日も早く本格的に動き出し、一人ひとりの支援対象者にとっても意義ある施策となることを強く願っています。

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藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリック・クロス代表取締役。2003年の創業以来、若年層・就職氷河期世代の就労支援に従事。2011年より大津市議会議員(滋賀県)を2期務め、地域の雇用労政や産業振興に注力して活動。株式会社ミクシィの社長室渉外担当など歴任。著書・寄稿に「就職氷河期世代の非正規ミドルを戦力化する 人事実務、マネジメント」(2019年)など多数。京都大公共政策大学院修了。1978年生まれ。
この記事へのコメント
こんにちは!いつもTwitterのツイートを拝見しています!私はいま有志の方のご協力を得て氷河期世代がテーマの新しい雑誌(きちんとした出版社から発売されるもので、ミニコミ誌とかではありません)の刊行を計画しています。この雑誌は氷河期世代に関する幅広いテーマを扱って行く予定なのですが、ぜひ藤井さまにもお力をお貸しいただければと思っています。もちろん普段のお仕事に差し障りのない範囲で結構です。コロナ騒動がひと段落し、氷河期世代の公務員採用試験も再始動しつつありますが、民間はまだまだです。ぜひこの雑誌を通して民間の氷河期世代採用も盛り上げていければと思っています。いかがでしょうか?ぜひご検討いただけましたら幸いです。
Posted by 小島鐵也(氷河期世代ユニオン) at 2020年05月27日 15:42
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