2020年07月03日

会社ホームページをリニューアルしました!



「パブリックX」として最初の決算が6月末で終わりました。
2期目に突入です。

会社ホームページもこの度、リニューアルさせていただくことにしました。


「パブリックXホームページ」(リンク)

少し長いのですが、第二創業にあたっての思いを以下に転載いたします。

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趣意文

2020年4月。私たちはきっと時代の分岐点にいる。ここ数年、テクノロジーの発達により生活や働き方が変わりつつあり、行政や民間企業を問わずにデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進され、夏にはいよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催されるはずだった。世の中はなにかソワソワした様相を呈してきていた。

しかし、新型コロナウィルス拡大により世の中は一変した。人々は活動の自粛とワクチン開発まで続くかもしれない不安な状況の真っ只中にいる。そして多くの人は否応なく働き方や学び方を見直している。NewNormal=恒常的なリモートワークを前提として、働く場所や時間、雇用形態は大きな意味をなくしつつある。戦後日本に根付いてきた価値観は大きな転換を迫られているように感じる。 そんな時期にパブリックXは誕生した。

パブリックXが描くありたい社会像は「一人ひとりが情熱を持ち、イキイキと活躍できる社会」である。遡ること17年前。実は2003年9月に私たちの旅は始まっている。京都リサーチパークの一室で、就職氷河期世代に光を当てるべくパシオ(PASIO)という会社が生まれた。就職氷河期世代が「情熱をもって生きることができる社会」にしていきたいという思いを社名にした。そして時が過ぎ、いま就職氷河期世代が抱える課題は、その世代だけの問題ではなくなり、出生率低下、社会保障制度に対する懸念、次代の担い手不足など様々な社会課題の原因となっている。単に就職氷河期世代の就労支援事業に取り組めば良いという段階ではなくなった。

行政のあり方も近年大きな変化の渦中にある。公共サービスを高コストで行政が丸抱えしてきた反動で、非効率となった行財政運営を市場化する「小さな政府」志向が現在では社会的な趨勢となっている。しかしこれも過渡期である。企業にとって市場として魅力がなければ民間委託や民営化できず、公共交通の赤字路線などに代表されるように行政が手を離した瞬間に切り捨てられる事案も生じている。ここにきて、「小さい政府」では社会課題の解決は実現できないことに多くの人たちが気づき始めた。

公共サービスの変容、すなわち、パブリック・トランスフォーメーション(パブリックX)が歴史から求められている。これまでの「サービス提供者としての(大きなor小さな)行政」から、「プラットフォームとしての行政」へ、そのあり方を変貌させるべく事業を行うことが要請されている。 プラットフォームとは基盤であり、OS(オペレーションシステム)のことである。この行政プラットフォーム論の考えに従うなら、市民や事業者が使うサービスとして「アプリ」が用意されなければならない。この「アプリ」を、行政と他の公共機関、又は行政と民間の協創造によって生み出し、適宜アップグレードしていくことが求められる。

フルパッケージの公共サービスではなく、個々人にとって異なる必要な公共サービスを最適に供給するために、従来、行政が一義的に担ってきた公共のパワーを社会全体に開放し、多様な主体が接続・掛け合っていかねばならないと考えた。パブリックXの由縁である。新しいテクノロジーを取り入れ、新しい発想を選択し、新しい概念を普及していくことが公共サービスの変容を促すことにつながると確信している。

行政の役割は依然としてインフラ整備は残されるが、それは道路や河川といったハードインフラのみではなく、アプリを協創造で生み出すためのデジタルインフラも含まれる。又、旧来の家族や終身雇用下におけるコミュニティが時代の流れとともに希薄化してきた一方、ソーシャルコミュニティ、何らかの関係性によって形成される現代的な仮想共同体といった支え合いの人的ネットワークインフラを構築することもプラットフォームとしての行政には大いに期待される事柄である。

同時に民間企業もプラットフォーム化が求められる。高い報酬によってのみ優秀な人材を確保できることはない。やりがいを感じられる仕事を提供し、切磋琢磨できる仲間が集まり、働きやすい職場風土などを醸成していくことが重要である。そうしたプラットフォームを作り出すことで、他の事業者や行政と結びつき、社会ニーズに応えられるアプリケーションを生み出していける。

行政であれ企業であれ、新型コロナウィルスの感染拡大を契機に、これから施策を展開しプロジェクトを運用していくためには、魅力的なプラットフォームでなければならない。私たちはそうしたプラットフォームの一翼を担いたい。

そして、私たちの原点は困難な立場にいる人たちの就労支援であった。就職氷河期世代の活躍支援にも引き続き取り組みたい。しかし、それだけではなく、パブリックXは、かつて大きい政府でやろうとしていたこと、近年、小さい政府がやろうとしていたこと成し遂げるために、新しい公共の仕組みを作り出したい。「プラットフォームとしての行政」を各地で進めるためには、働く場所や、働く時間、雇用形態によって縛られない一人ひとりの働く人たちをエンパワメントしていく。そして新しい時代を切り開く、新たなパブリックプロジェクトに、新しい時代を切り開く人材が出会える場を創出し、新しい公共の仕組みを動かしていきたい。

2020年4月 藤井哲也

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目指すところは、行政と民間とのシナジーによる、より良い社会です。
地方議員、そして会社経営者、ロビイストとして学んできたことを、止揚させて、まずは関西を、その先には日本全体を元気にしていきたいと思っています。

いろいろ仕込みを行なっています。
夏から秋にかけて、いくつかのプロジェクトが動き出し、そしてようやく公共のアップデートに向けて微力ながら、アクションのステージに進んでいけるのかなと考えています。

就職氷河期世代支援は、私のライフワークです。しっかり取り組みつつ、氷河期世代問題の背景や、その先にある雇用・社会保障の問題、自治体によるすみ良い地域づくりの問題にも幅を広げていこうと思います。


藤井哲也

  


2020年05月15日

激変する雇用環境の中で、再び就職氷河期を生み出さないために(自治体関係者向け)

新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため、外出や営業活動の自粛が続けられてきました。筆者が住む京都でも4月下旬に京都商工会議所の前会頭・立石義雄氏がコロナで亡くなられ一気に緊張が広がりました。4月の観光業や飲食業、イベント事業者などの景気動向指数は過去最低の数字となり、採用活動の一時中止や失業率の高まりの兆しが見られるなど、予断を許さない状況です。ワクチン開発がなされるまではWITHコロナの状態が続くと考えられます。

こうした中で、再び就職氷河期が到来するという悲観的な見方も出ています。果たして就職氷河期は到来するのか。このような時、地方議員や自治体レベルでできることはどのようなことでしょうか。


普段は肩が触れ合うほどの観光客や地元客で賑わう京都・錦市場。大型連休が終わっても閑散としている。


■説明会、面接、インターンのオンライン化…激変する雇用環境!

新型コロナの感染拡大によって働き方が激変しています。社員の在宅勤務の対策をいち早くとったGMOインターネットグループは、コロナ収束後も在宅勤務を継続する方針で、週に何度か出社して業務マネジメントとエンゲージメント維持に取り組むということが報じられています。ハンコを押すためだけに出社せねばならないことが社会問題になっていますが、大半の仕事が、実は在宅でできることが白日の下に晒されました。

就職活動も変化の渦中にあります。会社説明会、面接、そしてインターンシップもオンライン化が劇的に進んでいます。筆者が運営に関わる自治体の就業支援施設でも、求職者からのキャリアカウンセリングはZoomで行うことが当たり前になっています。緊急事態宣言が解除されてからも、就職活動のオンライン化の流れはおそらく止まらないでしょう。


地方でも合同企業説明会のオンライン化が進んでいる。この流れはコロナ後も恒常化するのではないか。


■就職氷河期を生み出した原因を振り返る

そんな激変する雇用環境の中で、懸念される就職氷河期は訪れるのでしょうか。その可能性を検討するために、就職氷河期世代が生まれた原因・背景を振り返ります。

原因1 20歳代のキャリア基盤形成期に就労環境が悪い状態が続く
就職氷河期世代が形成されたのは、社会に出たタイミングで就職環境が悪かった、というだけではなく、多くの人のキャリア基盤を築く20歳代半ばまでの大切な時期を通じて雇用環境が悪かったことが大きな要因です。リーマンショック後も雇用環境は悪かったのですが、数年間で景気回復し、当時の若者はキャリア形成の遅れをなんとか挽回することができました。

原因2 非正規労働者に成長機会が与えられなかった
非正規労働者は一般的に定型的な仕事を与えられることが多く、新たな価値を創造する仕事、マネジメントに関する仕事は正社員が担ってきました。正社員と非正社員の間に所得格差が生じるのは、正社員が役職に就く30代になってからです。役職や担当する職務が上がるに連れて正社員の給与は上がり、また成長機会も得られます。片や非正規社員は一向に給与は上がらず、与えられる仕事も変わらないため成長機会に乏しいまま時間が過ぎ去ります。
就職氷河期世代の支援対象者は約100万人と政府は推計しています。不本意に非正規社員を続けてきた方は、なかなか正社員になることができずに来ました。2010年代後半に景気回復し、新卒採用では飲食接待によるリクルーティング活動も復活するなど、近年稀に見る労働力の売り手市場化が進み、非正規社員の待遇改善・正規転換も一定なされました。しかし、その実態は、非正規社員並みの処遇でありながら、雇用形態は正社員という“なんちゃって正社員”も数多く見られます。

原因3 非正規や無業状態だった方への職業訓練が効果的ではなかった
当時の政府も無策だったわけではなく、雇用環境が悪化し新卒非正規が増え始めた2003年には早くも「若者自立挑戦プラン」を策定し、全国に若年者就業支援拠点「ジョブカフェ」を設置しました。リーマンショック後には給付金付き職業訓練事業や、雇用調整助成金制度を創設するなどしてきました。
しかし、民間委託で行われてきた職業訓練は、基礎的なOAスキルや、初歩的な介護福祉、WEBデザインなどに関する知識を学ぶものばかりでした。実は筆者も民間委託された職業訓練事業を1事業者として担っていたこともありましたが、社会に出て求められるスキルや労働意欲の水準と、現場で行っている職業訓練内容とのギャップに苦悩していました。


■新型コロナで再び就職氷河期は生まれるのだろうか?

結論から言うと、多くの困難を抱える就職氷河期世代が再び生まれる可能性は低いと考えられます。

確かに景気動向指数などを見ると、生活・サービス産業の急激な悪化が見られ、産業全体でも今後の見通しはよくありません。ただし、これまで見てきたように、就職氷河期世代は中長期的な不況期を通じて形成されます。未だ、若年層の完全失業率は低い水準で維持していますし、企業の採用意向も大きな落ち込みは見られません。環境変化に適応しようと、採用意欲ある企業は就職活動/採用活動をオンライン化し、「新しい標準(NewNormal)」と言われ始めているWITHコロナの活動様式へ進化を果たしつつあります。この波は、やがて大手企業から中小企業へ、都市部から地方へ伝播していくと考えられます。

しかし、油断してはなりません!!! バブル崩壊後、まさか10年間にわたる不況期が続き、束の間の景気の踊り場を経て、リーマンショックが到来することを、どれほどの方が予測できたでしょうか? 就職氷河期世代が生まれる可能性は低いかもしれませんが、政策の失敗により悪夢のシナリオを再び歩むようなことがあってはなりません。

今後注目しなければならない指標等は、進学・就職しない学生数と相関性が高い「学生の有効求人倍率」、中長期的な採用意欲と相関性が高い「景気動向指数」、就職媒体会社などが調査する「2022年度新卒採用計画に関する企業調査結果」などです。


《大学生の有効求人倍率とフリーター、ニート層形成の関係》

資料:文部科学省「学校基本調査」とリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」を用いて筆者作成
有効求人倍率が下がることで、就職でもなく進学でもないフリーター、ニート層が生まれた。


■就職氷河期が地域や自治体に与える影響とは?

万一、就職氷河期が再来することで、地域や自治体にどのような影響があるのでしょうか。40歳前後となっている就職氷河期世代が現在、与えている影響から考えてみます。

影響1 社会保障関連経費の増大。投資的経費の縮減
就職氷河期世代は他世代と比較して、不本意非正規率が高く、所得や貯蓄が低いという特徴があります。2000年代より氷河期世代向けの就労支援施策が展開され、正規転換や処遇改善に向けた事業が進められてきました。自治体においてもこれまで雇用対策に予算措置をしてきたはずです。
さらに今後は、氷河期が年齢を重ねていくにつれて、社会保障関連経費である扶助費(医療費や生活保護費など)を必要となっていきます。特に氷河期世代の親が他界する2040年代以降は経済的な拠所を失い、不安定な生活を余儀なくされている方の多くが生活保護対象に陥るとされています。必要となる経費は全国で十数兆円から数十兆円とされています。自治体の財政に与える影響も少なからずあると考えられ、投資的経費はさらに縮減せざるを得ない状況になっていきます。

影響2 地域経済やまちづくりの担い手が育たない
氷河期世代は本来、地域経済やまちづくりの担い手として活躍する年齢になっています。しかし子育てや介護などのケアワークも重なり、とても地域の中心的な役割を担うまで余裕がありません。元気な若手がいなくて自治会やPTA、消防団、商工団体などの活動の継続性に不安を感じている地域は多いと思います。今後ますます自治体や地域は、協働・共創が求められます。事業者、住民ともに働き盛りの人が疲弊していれば、施策推進はままなりません。

影響3 出生率の低下。更なる少子高齢化
結婚、子育てにはお金が入ります。「出生動向基本調査」では、「結婚しない理由/理想の子どもを持たなかった理由」は、毎回のように「結婚資金がない/経済的な理由」が上位となっています。第二次ベビーブーム世代にも該当する氷河期世代は、生活基盤が不安定であることから結婚、出産をためらい、結果的に第三次ベビーブーム世代を生むことはありませんでした。
自治体や地域にとって、出生率の低下は更なる少子高齢化を招き、若い世代の負担感を高めます。そのことにより一層、若年人口は都市部に流出する要因になります。

■地方議員や自治体に期待していること

就職氷河期が再来するのかを論じてきました。本稿を読んでくださっている方の中には地方議員や自治体関係者もいてくださると思います。最後に、そうした方々に是非取り組んでいただきたい事柄についてまとめたいと思います。

①地域特性に応じたWITHコロナ、アフターコロナの景気対策
コロナショックは、中小企業・小規模事業者、生活・サービス産業といった地域経済圏で事業を営む方々、従業員、生活者に大きなダメージを与えています。すでに国会では飲食、観光、イベント業などに対する収束後の経済対策として、約1兆7千億円の「Go to キャンペーン事業」を予算措置しています。
雇用不安を取り除くのに重要なのは、やはり景気対策です。国の施策展開はもちろん重要ですが、地域特性に合わせた経済対策を今のうちに、自治体や地域ごとに検討しておくことが必要です。
現在、売上が激減した事業者に対する独自支援策や、特別定額給付金の対応などで自治体も多忙を極めているはずです。収束後の対策まで手も頭も回りきらないと思いますが、このような時こそ、地方自治における二元代表の一翼を担う地方議員の皆様が、求められる施策を調査していくことを期待したいです。

②雇用労働対策の大胆なアップデート
 自治体が行う就職イベントなどの雇用労働対策もアップデートの必要があります。
すでに多くの自治体では、主催する求職者向けセミナーや合同企業説明会などをオンライン化しています。新たなテクノロジーを活用して、新たな労働施策を展開している事例も見られます。神戸市では、SNSを通して得られたカウンセリングデータや求職者の希望等のデータおよび就職先候補企業の要望について、AI技術等を用いて解析することで高い精度のマッチングを実現する取り組みを6月から始めようとしています。同時に、労働者に求められるスキルも近年大きく変容しています。残念ながら時代遅れの職業訓練事業では企業や地域に付加価値を提供できず、就労の機会も限られたものになってきます。
自治体が行う雇用労働政策として、生活困窮者支援や障害者支援など福祉的観点からも検討しなければなりませんが、いずれにせよ、コロナ後に大きく変わっていく求められるスキルの変化に対応して、就労支援、職業能力開発に関する事務事業の見直しを期待したいです。

③New Normal の働き方推進
リモートワークはコロナ前から推進されてきましたが、業務の継続性の観点からここにきて一気に進んでいます。ホワイトカラー職にあっては、成果やプロセスをマネジメントできさえすれば、必ずしも働く場所や働く時間、多くの人がもがき苦しんできた「正規」と「非正規」という雇用形態の壁に囚われる必要がないことも露わになっています。昨今、フリーランスや副業・兼業の問題に関して議論されてきたことが一夜にしてまとまったことには驚きました。
就業時間や場所も含めて、これまでの固定概念が、恒常的なリモートワークというNew Normalの登場により、形骸化、無意味化していく中で企業にも行政にも変革が求められます。すなわち、リモートワークを前提とした業務プロセスに加え、就業規則や人事・勤労管理ルールの検証・整備といった対応です。
議員の皆様や自治体の方々には、激変する働き方に適応するために、事業者や労働者に働きかけるとともに、行政組織も率先して取り組むように促して頂くことを期待したいです。そうすることが、経済活動の継続性をもたらし、ひいては採用活動の安定化をもたらすと考えています。


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藤井哲也(ふじい・てつや)
1978年生まれ。株式会社パブリックX代表取締役。しがジョブパーク就職氷河期世代担当。京都大学公共政策大学院修了。
就労支援会社の経営、大津市議会議員、政策ロビイング活動などを経て2020年4月から現職。
雇用問題、人事労務に関する著書・寄稿多数。
  


Posted by 藤井哲也 at 12:15Comments(0)行政のプラットフォーム化

2020年05月05日

コロナショックで変わる会社のプラットフォーム化とジョブ型雇用の進展

CaaS(サービス アズ ア カンパニー)
-コロナショックで変わる会社のプラットフォーム化とジョブ型雇用の進展-


コロナショックを経て、会社や働き方は多く変化すると考える。雇用形態も脱構築されるはずで、正社員―非正社員と言う枠組みは、近い将来、全く異なるものになる可能性がある。

正社員・非正社員というのは、かつてのイチニンマエ(番頭・手代)と丁稚の制度から発展した中で生まれた概念だと考える。
イチニンマエの業務効率を上げるために、丁稚奉公が雑用をやる。戦後、いわゆる腰掛社員や一般職社員が社員を支える仕組みとして発展し、ついで1985年男女共同参画法以降は、女性の社会進出にも伴い、総合職社員を担う女性の増加とともに自然と一般職社員はなくなりつつあった。そうした中、バブル崩壊後の経営合理化の必要性から、1995年に経団連の方針により選択と集中が叫ばれたように、雇用形態として典型業務を行う正社員と非典型業務を担う非正社員に業務が分離されることになったと考えられる。前後して、労働者派遣法が改正され派遣社員が増えたり、学生アルバイトやパートタイマーのように時間給で働く雇用形態の人が、正社員と同様に1日8時間、働くことが常態化し、そうした雇用形態で働く人が非正社員と呼ばれることで定着したように思われる。ちなみに「フリーター」は、自由に働くアルバイターのことで、否定的な捉え方ではなく、今でいうフリーランスに近い概念であった。非正規社員とは違う趣の言葉であったが、今では非正規社員の枠組みの中で包括化されている。
しかしながら近年、非正規社員であっても正社員と同様の職務につく人が増えてきたことと、ハイキャリア人材を中心に復業をする人や、プロジェクト単位で働く人が出てきたことから、正社員と非正社員との間の仕切りが、単純に「典型業務を行う人が非正規社員」で「非典型業務を行う人が正社員」とも言えなくなってきた。雇用形態と職務内容の関係性が融解しているように思われる。

今回のコロナショックにより、業務の見える化が一気に進むことになったと考えられる。つまり、これまで非典型業務だと思われていた難しそうな職務が、実は見えるもので、他の人でも代替性があることが明らかになりつつあるのではないか。また正社員たる人は、場所と時間と役職に縛られ働いてきたが、在宅ワークでは場所も時間も自由で、役職もフラットで問題ないことが明らかになりつつある。役職と言うのは本来は経営層、プロジェクトマネージャー、メンバー(人材)の3階層で問題ないと思われるが、会社に対する帰属意欲を高めるためのツールであったことが改めて感じられるものになっている。無駄に役職が多いように感じられる。

会社にいなくても、プロジェクトが動くということが明らかになりつつある中で、それではなぜ会社はあるのかと言う問題もある。一つの回答は、会社は、居場所である。つまり、戦前から戦後にかけて家庭や地域コミュニティにあった個人の居場所が、その後、会社が終身雇用する代わりにその会社の一員として貢献する、会社愛などが醸成される中で、会社が自身の居場所、アイデンティティの拠り所になっていった。しかしその中で変化があった。1990年代からの経営合理化の流れの中で、急速に日本型雇用慣習が崩れ始め、もはや居場所としての会社は急速に薄れていった。その代わりに若年者を中心に居場所となって行ったのがオンライン上のコミュニティだった。2000年代後半くらいから、オンライン上のコミュニティ、Facebookやツイッターなどのソーシャルコミュニティが家庭や会社が担っていた居場所機能を補完するようになり、または代替するようになって行った。コロナショックにより、巣篭もりが始まると、会社や家庭、地域という枠ではなく、ソーシャルコミュニティの役割はより大きなものになっていると感じられる。ゲマインシャフト(共同体)からゲゼルシャフト(利益社会)に移り、新たにバーチャルゲマインシャフト(仮想共同体)へのアイデンティティの拠り所が変遷しているように考えられる。

コロナショックで在宅ワークが進む中で、1990年代後半くらいから崩れ始めた居場所としての会社を知らない世代が中心的になる時期に、本格的に転換が生じることが予想される。現在40代後半になりつつあるその世代が最初のバーチャル共同体を形成しうる最初の世代だと考えると、都心部では、あとコロナショック後すぐに。遅くとも5年や10年といった期間で、会社の存在意義が変わる可能性がある。

一方、地方都市などでは変化は緩やかに進むと思われる。それは会社や地域における居場所が働く人に色濃く残っていることや、プラットフォームとしての会社があまり進まないからだと考えられる。

プラットフォームとしての会社は、会社がOS(オペレーションシステム)を動かすプラットフォーム(例えるならスマートフォン)になり、メンバーは社会ニーズを満たしたり、社会課題を解決するためのサービスを作り出し提供するアプリケーション(プロジェクトや製品)作りに関わることになる。メンバーやプロジェクトマネージャーは、アプリを作り出し、動かすためにプラットフォームと接点を持ち働くことになるが、場合によっては別のプラットフォームと掛け持ちで、アプリを作ったり動かすために働くことにもなる。またプラットフォームが提供するOSが古臭く感じられたり、他のメンバーとの相性が良くなかったりすれば、そのプラットフォームを離れることになる。なぜ地方都市において、変化が緩やかであると言うのは、プラットフォームの数が少ないからである。自分が関わりたいと思えるプラットフォームやアプリケーションが、少なければ、プラットフォーム間の移動は少なくなる。だから地方都市では、既存の正社員―非正社員という枠組みがアフターコロナ出あっても変わらずに残る。しかし都心部における変化の波はいずれ地方にも及ぶ。10年から20年と言う時間を経て、地方都市においてもプラットフォームとしての会社は進行し、いずれ仮想共同体に慣れ親しんだ世代が地方においても中心的な役割を担うようになる頃に、従来の雇用形態によった働き方は終わりを迎えることになる。

会社がプラットフォーム化する中で、雇用形態は正社員や非正社員と言うのではなく、ジョブ型雇用となる。職務によって報酬が決定される。正社員や非正社員はメンバーに一元化され、仕事内容の違いだけが残る。そこには超えられないハードルは低くなり、キャリア形成の努力次第で、越えられる区分分けがあることになる。

他方、行政のプラットフォーム化も進む。行政と民間企業のあり方が同時に変化する。社会ニーズや課題の解決のために、行政と民間は連携し、また相互に作用しつつ、動くことになる。人材はその間で自分の興味関心や持つ技能を踏まえて取り組みたい課題につくことになる。

今まさに、同一労働同一賃金が議論され、またフリーランスなどの雇用類似の働き方に対する法制度が整備されようとしている。これらはジョブ型雇用を進めるために必要不可欠の要素である。雇用形態が融解するとしても、正社員が有利であるならば、そこに残る人も多い。しかし、どのような働き方であってもセーフティネットがあり、損をしないと言うことになれば、特別、正社員と言う働き方をする利点もない。

正社員、非正規社員による区分けとは、つきつめれば、会社側の都合にたった概念であり、幻想でもある。そうした幻想は正社員である人が加担して作り出している面もある。士農工商ではないが、ある種の既得権益を持つ人が、そうした枠組みに反対を唱えず結果として肯定していることになっている。
しかし、復業に対する環境整備が進み、またプロジェクト単位で企業に関与する働き方(会社のプラットフォーム化)が進展する中で、会社の都合としての正社員制度は崩壊するかもしれない。囲い込むほど、人は離れるからである。すでにこうした働き方は都心の先進的な企業では目に見える形で進行している。

こうした社会の中で、人材側に求められるのは、スキル開発である。新たなプロジェクトに関わりたいと思うときにスキルを持ってさえいれば自分で行動範囲を広げることができる。またジョブ型雇用が浸透する中で、スキルや知見、経験こそが、報酬ややりがいを高めることにつながる。社内の人間関係に留意することはもちろんパフォーマンスを発揮していくために大切なことではあるが、無駄な労力を使って、無駄な仕事をすることは減ってくる。そうした情意的な評価は相対的に低くなり、あくまで能力で評価されるようになってくる。

他方、企業に求められるのは、優秀な人材を寄せるための、プラットフォームを持つこと。優れたOS(理念や考え方)を持ち、最新のバージョンにアップデートされ、また優れたアプリケーションを生み出すための風土や制度、人材が集まっているか、仕組みを持っているかが重要になってくる。これらはすでに多くの会社で求められることと同じであるが、社員を囲いこむための福利厚生などの重要性は低下し、より魅力的な働く環境を作ることができるかが、重要になってくる。また多彩な人材を生かすことができるマネージャの存在が、これまで同様、もしくはこれまで以上に重要になってくると考えられる。無理を言っても聞いてくれるという中長期的な上下関係が希薄化する中では会社が予定している中長期的なインセンティブが働かなくなるためであり、いかにして人材に能力を発揮してモチベーション高く働いてもらうか、マネージャに求められる役割は重要になってくると考える。優れたマネージャを揃えるためにジョブ型雇用や、会社に対するエンゲージメント施策が求められる。またマネージャーも正社員ではなく、オーガナイザー(構成員)として、雇用形態によらず、活用することが今後は当たり前になってくるはず。
会社はサービスを社会に提供するためのプラットフォームとしての役割、CaaS(Company as a Service)へと変化していくはずで、個人は徐々に仮想共同体の中で、仕事そのものにやりがいを覚えながら、家庭や地域、会社など様々な繋がりを統合して作り出される仮想共同体で居場所を見つけ、評価されていくことになっていくのではないだろうか。





  


Posted by 藤井哲也 at 12:48Comments(0)行政のプラットフォーム化