2017年11月09日

不平等を生み出すもの(レスター・C・サロー著、小池和男・脇坂明訳,1984)



「あとがき」より抜粋(p299-300)

 
 教科書の世界では、サミュエルソンであれ資本論であれ、労働者は企業を自由に移動できる。それというのも、労働者が技能を企業の外で身に付けている。身に付けた技能に応じて相場賃金が形成される。だから企業を移っても損はないし、また相場賃金を支払わない企業をさっさとやめ、賃金のより高いところに移っていく。サローはこの教科書の考え方を、高い賃金を求めて競争するから「賃金競争モデル」とよぶ。そこでは、ひとつの企業に長くつとめたり、ましてや長くつとめると賃金が上がっていくなどというのは、まことにおかしい。本来賃金が上るのは技能が高まったときであり、技能を高めるには企業外で改めて訓練を受けなければならないはずだ、と考えるのである。人々はこの教科書の世界を欧米の現実と思い込み、日本が特殊だ、と考えてきた。

 このサローの本は、教科書の世界を真向から打ちくだく。現実をみよ。アメリカでも技能習得の主流はもはや企業の外ではない。企業へは技能をもたずに入る。入ってから仕事に就き、仕事をして覚えていく。OJTである。そして企業の中でよりよい仕事へと進み、賃金を高めていく。つまり、まず企業に入り、仕事につかなければ、技能を身に付けることができない。技能を身に付ける機会があたえられているかどうかこそが、重要なのである。サローはこれを、「賃金競争モデル」と対比して「仕事競争モデル」とよぶ。仕事、すなわち技能を身に付ける機会を求める競争なのでる。このモデルの説明力は高く、はじめて受験競争や人種、男女の差別が解明された。サローの数多い本の中でも、最も貢献度の高い業績ではないであろうか。



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