2020年05月17日

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(1)

本記事は、時事通信社が発行する行政機関向け雑誌「地方行政」に3回にわたり掲載された記事を基に、若干の加筆修正を行った上で再編集したものです。
寄稿した原文記事については、PublicLabに掲載頂いておりますので、そちらをご覧ください。なお原文記事の掲載時期は、新型コロナウィルス感染拡大に伴う緊急事態宣言発出前の3月中旬から4月上旬です。


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1.はじめに

就職氷河期世代。一般的に1993年から2004年に学校を卒業して社会に出た世代のことを言います。昨年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2019」(いわゆる「骨太の方針」)で、この世代に対する集中的な支援の必要性が論じられて以降、にわかに国、地方で動きが活発になってきました。
筆者もこの世代の一人であることから、高い関心を持ち、昨年から政策立案に関わる方々との意見交換を重ね、情報収集に努めてきました。まずはなぜ今、この問題がクローズアップされてきたのかを見ていきます。


2.就職氷河期世代が生まれた社会背景

就職氷河期世代が生まれた背景には、バブル崩壊後、日本型雇用慣習が薄れつつあった1990年代前半の環境が関係しています。折からの不景気と相まって新卒採用が絞られ、買い手市場が進行する中で、雇用の調整弁としてフリーターや派遣社員、有期契約社員など「非正規」とされる雇用形態で働く若年層の比率が増え始めました。バブルが崩壊しても、しばらくは有効求人倍率に顕著な低下は見られなかったものの、山一証券などが倒産した1997年を境に有効求人倍率も大きく低迷し、2000年代前半にかけて、就職環境は極めて厳しいものとなりました。

まさに「氷河期」に喩えられた時期に社会へ出た当時の新卒・若年者は、現在、40歳代後半から30歳代後半となってきています。この世代は前後の世代と比較して、平均的な所得水準が低いとされており(図表)、そのため無貯金率も高く、また経済的な生活基盤が安定しないことから、婚姻率が低いと考えられます。ちょうど、就職氷河期世代が大きな人口ボリュームを抱える第2次ベビーブーム世代を含むことから、人口減少に拍車が掛かったという側面もあります。


図表(出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を用いて筆者作成)

就職氷河期世代を考える際に、学校を卒業した時点(=点)よりも、キャリアの基盤を築く20歳代を通じて(=線)、就職・就労環境が悪かったことが要因になったと考える方がよいでしょう。彼ら彼女らは初職で運よく正社員で就職できたとしても、不本意な就職先だった人が大半で、今ならば恐らくブラック企業・風土とされる人使いが荒い職場も多く見られました。これは「嫌なら辞めてもいい。代わりは幾らでもいる」という、買い手市場がなすところが大きかったと考えられます。

早期退職してしまえば、再就職は正社員でないことも多く、再チャレンジできない状況に陥ることも多々見られました。景気回復に伴う雇用環境の改善が見られた2000年代後半の時点で、30歳前後であり、一定の正規転換・待遇改善が図られたものの、2009年ころからリーマン・ショックの影響で、一気に雇用環境は悪化し、2010年代半ばまではまたもや厳しい就職環境に逆戻りしました。ようやくリーマン・ショックの影響も収まりかけた時には、すでに就職氷河期世代は労働市場における一つの壁とされる35歳を超えていたことから、正社員として就労する機会が失われ、今に至る方も多くいます。


3.就職氷河期世代支援に向けた動き

就職氷河期に初職を迎え、今不安定な就労や生活基盤にある人が多い世代のために、国や自治体はこれまでも支援に取り組んできました。2003年の小泉純一郎政権時に、骨太の方針で若年者就業支援施策が取り上げられ、厚生労働省や文部科学省など関係省庁が連携し始められたのが「若者自立・挑戦プラン」でした。

「若者自立・挑戦プラン」では、「今、若者は、チャンスに恵まれていない。高い失業率、増加する無業者、フリーター、高い離職率など、自らの可能性を高め、それを活かす場がない。このような状況が続けば、若者の職業能力の蓄積がなされず、中長期的な競争力・生産性の低下といった経済基盤の崩壊はもとより、不安定就労の増大や生活基盤の欠如による所得格差の拡大、社会保障システムの脆弱化、ひいては社会不安の増大、少子化の一層の進行等深刻な社会問題を惹起しかねない」「わが国にとって人材こそ国家の基礎であり、政府、地方自治体、教育界、産業界等が一体となった国民運動的な取り組みとして、若年者を中心とする『人材』に焦点を当てた根本的対策を早急に講じていく必要がある」として、当面3年を期間と定めて、官民一体となって総合的な人災対策が進められました。

2003年当時、200万人を超える若年フリーター、100万人規模の若年無業者。こうした若年者の就労を支援し職業能力を身に付けさせるために、ジョブカウンセリングや職業訓練、職業紹介などの機能を集約した「ジョブカフェ」と呼ばれる施設が各都道府県に設置されました。筆者もこれら一連の事業に現場で関わっていましたが、一定の成果を挙げたと評価しています。

その後はリーマン・ショック後の2009年に緊急人材育成・就職支援基金が設けられ、この基金に基づく出口一体型の職業訓練が始められ(基金訓練事業)、求職者訓練事業と名称を変えながら、就職氷河期世代を含む無業者・求職者に対する支援は進められました。この時期、雇用調整助成金など企業等を受け皿とする雇用維持のための施策も採られ、これも2010年前後の非常に厳しい労働市場の中で一定の成果があったと考えています。

2016年から現在までは、「正社員転換・待遇改善実現プラン」に基づいて、不本意非正規雇用労働者の正社員転換や待遇改善のための様々な取り組みが進められてきました。年次ごとに成果指標による評価がなされており、着実に不本意非正規雇用者は減ってきています。

以上見てきた通り、これまでも断続的に就職氷河期世代を含む非正規労働者や無業者の就労支援施策は実施されてきました。しかし、今なお不本意非正規労働者は推定50万人以上、長期間無業状態にいる方は40万人以上、またひきこもり状態にある方は実態が掴めてはいませんが数十万人いるとされています(図表)。


図表(出典:総務省統計局「『35~44歳』世代の就業状況」)

一人ひとりが自立して生きがいを高め、それぞれの立場で活躍していくこと、そして将来的に所得水準が低いと考えられる就職氷河期世代が老齢期に入る、2040年以降に想定される多大な社会保障経費を抑制する観点からも、この世代に対する支援の重要性が改めて着目され、先にも述べましたように、昨年6月に「骨太の方針」で取り上げられ、厚労省は同月にいち早く「就職氷河期世代支援プログラム」を公表し、7月には内閣官房に就職氷河期世代支援推進室が設置され、8月末までに翌年度事業に係る概算要求に就職氷河期世代支援事業が含められ、その後、具体的な施策検討が進められてきました。いよいよ本年4月から、3年間で30万人の正社員転換を目指す、官民連携による「就職氷河期世代支援プログラム」が始まろうとしています。


4.就職氷河期世代の職員採用をめぐる取り組み

本年4月からの本格的な支援に先行する形で、当該世代の職員採用や、官民連携事業をモデル的に実施する自治体もすでに見られます。

中でも昨年7月に全国の自治体に先駆けて就職氷河期世代(36〜45歳に限定)の職員採用を行うことを表明し、本年1月に任用した兵庫県宝塚市は有名となりました。3人の一般行政職採用枠に対して全国から1800人を超える応募があり、1635人が受験、最終的に4人が採用されることになりました。倍率は408倍。なかなか狭き門ですが、就職氷河期世代を採用する自治体の先鞭をつけた点で、大変意義ある取り組みです。

任用後は適性や経験、能力を見極めて配属を決定し既存の俸給制度の中で、それぞれの職場で活躍されているとのことです。なお、厚労省や内閣官房のほか、全国の都道府県、市町村で就職氷河期世代採用は進められており、総務省ホームページの「地方公共団体における就職氷河期世代支援を目的とした職員採用試験の実施状況」で、現在募集している自治体などを確認できます。

しかし、課題が全くないとも言い切れません。実際、宝塚市議会でもさまざまな意見が出されたといいます。主な論点としては、年齢を区切って採用することの是非のほかに、職員定数管理に与える影響や、情意的・情緒的な選考になることへの懸念などが挙げられます。

宝塚市議会の昨年9月の一般質問で就職氷河期世代の採用に関して理解を示しつつ、その課題を取り上げた寺本さなえ市議は、取材に対して、「市には既存の職員育成計画があるわけで、就職氷河期世代を採用することによって、本来採用すべき土木技術職や福祉の有資格者の採用に与える影響も、考慮されなければならない。また、あくまで能力や経験を評価して採用すべきで、苦労談比べの採用になってしまって明確な基準がない中での選考になってしまうとするなら問題がある。障害者雇用は法定に基づくもので十分市民にも理解が得られると思われるが、氷河期に絞った採用はアファーマティブアクション(積極的な差別是正措置)であったとしても、一定の合理性が必要になると考える。もともと不本意非正規(臨時職員)で働き続けている職員もいるので、そういった方を優先的に採用してもよいのではないだろうか」と、自治体における就職氷河期世代の職員採用の課題点を挙げられました。

宝塚市人材育成課にもお話を伺ったところ、「市長が就職氷河期世代に対して社会的な問題意識を持っていたことから始めた取り組みです。結果的に今年は4人しか採用できませんでしたが、今後の就職氷河期世代の活躍につなげていきたいと考えています。また今後は専門職や技術職にも広げていくことや、対象年齢をどうするかなど検討課題も多くあります。46歳の方から応募対象でないことに関して、ご意見を頂戴することもありました」と、おっしゃっていました。
今後、就職氷河期世代支援を民間企業や経済団体にも働き掛けていくためには、行政自らが範を示すためにも、当該世代の職員採用を進めることが求められるかもしれません。そうした場合、庁内の中長期的な職員採用や育成計画との兼ね合いや、市民や議会の理解が得られる選考基準づくりが必要になってくると考えられます。


宝塚市議会、宝塚市役所にインタビューのため、お伺いさせて頂きました。


5.就職氷河期世代支援プログラムの概要

昨年6月に「骨太の方針」で示された「就職氷河期世代支援プログラム」や、昨年12月に決定された「就職氷河期世代支援に関する行動計画2019」から、今後進められる就職氷河期世代支援施策の概要をまとめます。

プログラムの基本認識は、「3年間の取り組みにより正規雇用者を30万人増やす」こと。そのために「社会との新たなつながりを作り、本人に合った形での社会参加も支援するため、社会参加支援が先進的な地域の取組の横展開を図っていく。個々人の状況によっては、息の長い継続的な支援を行う必要があることに留意しながら、まずは本プログラムの期間内に、各都道府県等において支援対象者が存在する基礎自治体の協力を得て、対象者の実態やニーズを明らかにし、必要な人に支援が届く体制を構築することを目指す」としています。

支援対象者は、「不安定な就労状態にある方」「長期にわたり無業の状態にある方」「社会参加に向けた支援を必要とする方」に大きく3分類し(図表)、国、地方自治体、民間企業や経済団体などと連携して施策を推進する体制を前提とし、施策の方向性としては、地域ごとの官民連携プラットフォームにより推進を図るとともに、一人ひとりの対象者につながる積極的な広報活動、対象者の個別状況に応じた各種事業の展開を進めることが検討されています。


図表(出典:厚生労働省「就職氷河期世代の方々の活躍の場を更に広げるために」)

具体的な施策としては、新たに就職氷河期世代に限定した求人をハローワークや民間の求人サービスにおいて要件を緩和すること、短時間で可能な資格取得を支援するために職業訓練制度を見直したり、オンラインで各種訓練を受講できたりするようにすること、民間事業者による正社員就職に対する成果連動型就労支援の推進など不本意非正規社員の正規転換策のほかに、地域若者サポートステーションの対象年齢等の拡大や、生活困窮者自立支援事業の強化、中高年ひきこもり者のアウトリーチ型支援の充実、いわゆる「8050問題」等の複合課題に対応できる包括的支援・居場所づくりの推進などが挙げられています。さらに、当該世代を採用・正社員転換した企業への助成金も従来から拡充されます。

この他、次号以降で取り上げますが、事業予算の75%を充当できる「地域就職氷河期世代支援加速化交付金」として、2019年度補正予算では全国で30億円が措置され、地方創生交付金の50%補助に比べて、地方自治体にとって有利な財源として活用できることになりました。この交付金を用いて、様々な取り組みが進められる予定ですが、中でも注目しているのは、神戸市がSNSなどでのカウンセリング結果をデータベースとしてAIを用いた求人企業とのマッチング事業をスタートされることです。テクノロジーを活用した就職氷河期世代支援として、全国にも十分展開可能な事業になるものと考えています。

(続く)

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藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリック・クロス代表取締役。2003年の創業以来、若年層・就職氷河期世代の就労支援に従事。2011年より大津市議会議員(滋賀県)を2期務め、地域の雇用労政や産業振興に注力して活動。株式会社ミクシィの社長室渉外担当など歴任。著書・寄稿に「就職氷河期世代の非正規ミドルを戦力化する 人事実務、マネジメント」(2019年)など多数。京都大公共政策大学院修了。1978年生まれ。
  


Posted by 藤井哲也 at 00:00Comments(0)就職氷河期世代活躍

2020年05月15日

激変する雇用環境の中で、再び就職氷河期を生み出さないために(自治体関係者向け)

新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため、外出や営業活動の自粛が続けられてきました。筆者が住む京都でも4月下旬に京都商工会議所の前会頭・立石義雄氏がコロナで亡くなられ一気に緊張が広がりました。4月の観光業や飲食業、イベント事業者などの景気動向指数は過去最低の数字となり、採用活動の一時中止や失業率の高まりの兆しが見られるなど、予断を許さない状況です。ワクチン開発がなされるまではWITHコロナの状態が続くと考えられます。

こうした中で、再び就職氷河期が到来するという悲観的な見方も出ています。果たして就職氷河期は到来するのか。このような時、地方議員や自治体レベルでできることはどのようなことでしょうか。


普段は肩が触れ合うほどの観光客や地元客で賑わう京都・錦市場。大型連休が終わっても閑散としている。


■説明会、面接、インターンのオンライン化…激変する雇用環境!

新型コロナの感染拡大によって働き方が激変しています。社員の在宅勤務の対策をいち早くとったGMOインターネットグループは、コロナ収束後も在宅勤務を継続する方針で、週に何度か出社して業務マネジメントとエンゲージメント維持に取り組むということが報じられています。ハンコを押すためだけに出社せねばならないことが社会問題になっていますが、大半の仕事が、実は在宅でできることが白日の下に晒されました。

就職活動も変化の渦中にあります。会社説明会、面接、そしてインターンシップもオンライン化が劇的に進んでいます。筆者が運営に関わる自治体の就業支援施設でも、求職者からのキャリアカウンセリングはZoomで行うことが当たり前になっています。緊急事態宣言が解除されてからも、就職活動のオンライン化の流れはおそらく止まらないでしょう。


地方でも合同企業説明会のオンライン化が進んでいる。この流れはコロナ後も恒常化するのではないか。


■就職氷河期を生み出した原因を振り返る

そんな激変する雇用環境の中で、懸念される就職氷河期は訪れるのでしょうか。その可能性を検討するために、就職氷河期世代が生まれた原因・背景を振り返ります。

原因1 20歳代のキャリア基盤形成期に就労環境が悪い状態が続く
就職氷河期世代が形成されたのは、社会に出たタイミングで就職環境が悪かった、というだけではなく、多くの人のキャリア基盤を築く20歳代半ばまでの大切な時期を通じて雇用環境が悪かったことが大きな要因です。リーマンショック後も雇用環境は悪かったのですが、数年間で景気回復し、当時の若者はキャリア形成の遅れをなんとか挽回することができました。

原因2 非正規労働者に成長機会が与えられなかった
非正規労働者は一般的に定型的な仕事を与えられることが多く、新たな価値を創造する仕事、マネジメントに関する仕事は正社員が担ってきました。正社員と非正社員の間に所得格差が生じるのは、正社員が役職に就く30代になってからです。役職や担当する職務が上がるに連れて正社員の給与は上がり、また成長機会も得られます。片や非正規社員は一向に給与は上がらず、与えられる仕事も変わらないため成長機会に乏しいまま時間が過ぎ去ります。
就職氷河期世代の支援対象者は約100万人と政府は推計しています。不本意に非正規社員を続けてきた方は、なかなか正社員になることができずに来ました。2010年代後半に景気回復し、新卒採用では飲食接待によるリクルーティング活動も復活するなど、近年稀に見る労働力の売り手市場化が進み、非正規社員の待遇改善・正規転換も一定なされました。しかし、その実態は、非正規社員並みの処遇でありながら、雇用形態は正社員という“なんちゃって正社員”も数多く見られます。

原因3 非正規や無業状態だった方への職業訓練が効果的ではなかった
当時の政府も無策だったわけではなく、雇用環境が悪化し新卒非正規が増え始めた2003年には早くも「若者自立挑戦プラン」を策定し、全国に若年者就業支援拠点「ジョブカフェ」を設置しました。リーマンショック後には給付金付き職業訓練事業や、雇用調整助成金制度を創設するなどしてきました。
しかし、民間委託で行われてきた職業訓練は、基礎的なOAスキルや、初歩的な介護福祉、WEBデザインなどに関する知識を学ぶものばかりでした。実は筆者も民間委託された職業訓練事業を1事業者として担っていたこともありましたが、社会に出て求められるスキルや労働意欲の水準と、現場で行っている職業訓練内容とのギャップに苦悩していました。


■新型コロナで再び就職氷河期は生まれるのだろうか?

結論から言うと、多くの困難を抱える就職氷河期世代が再び生まれる可能性は低いと考えられます。

確かに景気動向指数などを見ると、生活・サービス産業の急激な悪化が見られ、産業全体でも今後の見通しはよくありません。ただし、これまで見てきたように、就職氷河期世代は中長期的な不況期を通じて形成されます。未だ、若年層の完全失業率は低い水準で維持していますし、企業の採用意向も大きな落ち込みは見られません。環境変化に適応しようと、採用意欲ある企業は就職活動/採用活動をオンライン化し、「新しい標準(NewNormal)」と言われ始めているWITHコロナの活動様式へ進化を果たしつつあります。この波は、やがて大手企業から中小企業へ、都市部から地方へ伝播していくと考えられます。

しかし、油断してはなりません!!! バブル崩壊後、まさか10年間にわたる不況期が続き、束の間の景気の踊り場を経て、リーマンショックが到来することを、どれほどの方が予測できたでしょうか? 就職氷河期世代が生まれる可能性は低いかもしれませんが、政策の失敗により悪夢のシナリオを再び歩むようなことがあってはなりません。

今後注目しなければならない指標等は、進学・就職しない学生数と相関性が高い「学生の有効求人倍率」、中長期的な採用意欲と相関性が高い「景気動向指数」、就職媒体会社などが調査する「2022年度新卒採用計画に関する企業調査結果」などです。


《大学生の有効求人倍率とフリーター、ニート層形成の関係》

資料:文部科学省「学校基本調査」とリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」を用いて筆者作成
有効求人倍率が下がることで、就職でもなく進学でもないフリーター、ニート層が生まれた。


■就職氷河期が地域や自治体に与える影響とは?

万一、就職氷河期が再来することで、地域や自治体にどのような影響があるのでしょうか。40歳前後となっている就職氷河期世代が現在、与えている影響から考えてみます。

影響1 社会保障関連経費の増大。投資的経費の縮減
就職氷河期世代は他世代と比較して、不本意非正規率が高く、所得や貯蓄が低いという特徴があります。2000年代より氷河期世代向けの就労支援施策が展開され、正規転換や処遇改善に向けた事業が進められてきました。自治体においてもこれまで雇用対策に予算措置をしてきたはずです。
さらに今後は、氷河期が年齢を重ねていくにつれて、社会保障関連経費である扶助費(医療費や生活保護費など)を必要となっていきます。特に氷河期世代の親が他界する2040年代以降は経済的な拠所を失い、不安定な生活を余儀なくされている方の多くが生活保護対象に陥るとされています。必要となる経費は全国で十数兆円から数十兆円とされています。自治体の財政に与える影響も少なからずあると考えられ、投資的経費はさらに縮減せざるを得ない状況になっていきます。

影響2 地域経済やまちづくりの担い手が育たない
氷河期世代は本来、地域経済やまちづくりの担い手として活躍する年齢になっています。しかし子育てや介護などのケアワークも重なり、とても地域の中心的な役割を担うまで余裕がありません。元気な若手がいなくて自治会やPTA、消防団、商工団体などの活動の継続性に不安を感じている地域は多いと思います。今後ますます自治体や地域は、協働・共創が求められます。事業者、住民ともに働き盛りの人が疲弊していれば、施策推進はままなりません。

影響3 出生率の低下。更なる少子高齢化
結婚、子育てにはお金が入ります。「出生動向基本調査」では、「結婚しない理由/理想の子どもを持たなかった理由」は、毎回のように「結婚資金がない/経済的な理由」が上位となっています。第二次ベビーブーム世代にも該当する氷河期世代は、生活基盤が不安定であることから結婚、出産をためらい、結果的に第三次ベビーブーム世代を生むことはありませんでした。
自治体や地域にとって、出生率の低下は更なる少子高齢化を招き、若い世代の負担感を高めます。そのことにより一層、若年人口は都市部に流出する要因になります。

■地方議員や自治体に期待していること

就職氷河期が再来するのかを論じてきました。本稿を読んでくださっている方の中には地方議員や自治体関係者もいてくださると思います。最後に、そうした方々に是非取り組んでいただきたい事柄についてまとめたいと思います。

①地域特性に応じたWITHコロナ、アフターコロナの景気対策
コロナショックは、中小企業・小規模事業者、生活・サービス産業といった地域経済圏で事業を営む方々、従業員、生活者に大きなダメージを与えています。すでに国会では飲食、観光、イベント業などに対する収束後の経済対策として、約1兆7千億円の「Go to キャンペーン事業」を予算措置しています。
雇用不安を取り除くのに重要なのは、やはり景気対策です。国の施策展開はもちろん重要ですが、地域特性に合わせた経済対策を今のうちに、自治体や地域ごとに検討しておくことが必要です。
現在、売上が激減した事業者に対する独自支援策や、特別定額給付金の対応などで自治体も多忙を極めているはずです。収束後の対策まで手も頭も回りきらないと思いますが、このような時こそ、地方自治における二元代表の一翼を担う地方議員の皆様が、求められる施策を調査していくことを期待したいです。

②雇用労働対策の大胆なアップデート
 自治体が行う就職イベントなどの雇用労働対策もアップデートの必要があります。
すでに多くの自治体では、主催する求職者向けセミナーや合同企業説明会などをオンライン化しています。新たなテクノロジーを活用して、新たな労働施策を展開している事例も見られます。神戸市では、SNSを通して得られたカウンセリングデータや求職者の希望等のデータおよび就職先候補企業の要望について、AI技術等を用いて解析することで高い精度のマッチングを実現する取り組みを6月から始めようとしています。同時に、労働者に求められるスキルも近年大きく変容しています。残念ながら時代遅れの職業訓練事業では企業や地域に付加価値を提供できず、就労の機会も限られたものになってきます。
自治体が行う雇用労働政策として、生活困窮者支援や障害者支援など福祉的観点からも検討しなければなりませんが、いずれにせよ、コロナ後に大きく変わっていく求められるスキルの変化に対応して、就労支援、職業能力開発に関する事務事業の見直しを期待したいです。

③New Normal の働き方推進
リモートワークはコロナ前から推進されてきましたが、業務の継続性の観点からここにきて一気に進んでいます。ホワイトカラー職にあっては、成果やプロセスをマネジメントできさえすれば、必ずしも働く場所や働く時間、多くの人がもがき苦しんできた「正規」と「非正規」という雇用形態の壁に囚われる必要がないことも露わになっています。昨今、フリーランスや副業・兼業の問題に関して議論されてきたことが一夜にしてまとまったことには驚きました。
就業時間や場所も含めて、これまでの固定概念が、恒常的なリモートワークというNew Normalの登場により、形骸化、無意味化していく中で企業にも行政にも変革が求められます。すなわち、リモートワークを前提とした業務プロセスに加え、就業規則や人事・勤労管理ルールの検証・整備といった対応です。
議員の皆様や自治体の方々には、激変する働き方に適応するために、事業者や労働者に働きかけるとともに、行政組織も率先して取り組むように促して頂くことを期待したいです。そうすることが、経済活動の継続性をもたらし、ひいては採用活動の安定化をもたらすと考えています。


 ◇   ◇   ◇
藤井哲也(ふじい・てつや)
1978年生まれ。株式会社パブリックX代表取締役。しがジョブパーク就職氷河期世代担当。京都大学公共政策大学院修了。
就労支援会社の経営、大津市議会議員、政策ロビイング活動などを経て2020年4月から現職。
雇用問題、人事労務に関する著書・寄稿多数。
  


Posted by 藤井哲也 at 12:15Comments(0)就職氷河期世代活躍

2020年05月12日

コロナショックで、新たな就職氷河期を生まないために!【後編】

コロナショックで、新たな就職氷河期を生み出さないために、どのように私たちは考えて取り組んでいけば良いのでしょうか?
今回、言論プラットフォーム「アゴラ」に前・後編で取り上げて頂いた原稿に、加筆して、以下、私の考えをまとめたいと思います。

アゴラ掲載記事 
▶︎ 前編  ▶︎ 後編

  ◇  ◇  ◇


3. 新たな就職氷河期世代が生まれるのか?

今般のコロナショックは、新たな就職氷河期世代を生む可能性があります。有効求人倍率と相関度が高い景気動向が、今後1年間にわたって低空飛行になることが見込まれています。


いらすとや

帝国データバンクによる最新の景気動向調査によると、少なくとも今後1年間は景気DIが低い状況が続くと予測されています。1年で不況期を乗り越えられれば、リーマンショック時同様に若者にとってキャリア形成の挽回の余地は残されますが、果たして、景気浮揚ができるのでしょうか。不安が残ります。

万が一、新型コロナウィルスを抑えられなければ、延期した東京オリンピック・パラリンピックも中止に追い込まれるでしょうし、来たる総選挙にも多大な影響が出ると考えられます。政局の混乱は経済対策にも少なからず影響を与えるのではないでしょうか。


今後の景気動向指数(DI)の見込み

帝国データバンク「TDB景気動向調査(全国)」を用いて筆者作成

一方で楽観視できる材料もあります。日経ディスコが今年3月下旬に実施した調査『新型コロナウイルス感染拡大による採用活動への影響調査』によると、2021年度新卒採用活動にコロナ大手企業の採用意向に目立って大きな変化は見られません。オンライン選考を積極的に取り入れて、なんとか採用活動を継続しようとする動向が見て取れます。例えば、滋賀県主催で5月下旬に開催するオンライン合同企業説明会は、参加企業を募集した当日中に30枠が全て埋まりました。

しかし、5月大型連休が明け、ここにきて新卒採用活動を一時中断する大手企業も出始めています。収束に時間がかかるようであれば、2021年度採用だけではなく2022年度以降の採用活動にも影響を与える可能性があります。

また今回、短期間で景気が激変した経験が、企業の処遇改善活動に与える影響はどれくらいのものになるかは未知数です。収束後も景気回復や経済好況が一定期間持続することが予め見込めなければ、連鎖的に採用意欲は減退し、中長期的に新規雇用は絞られ、新たに就職氷河期世代が形成されてしまう可能性が出てきます。


ANAグループのウェブサイトより。


  ◇  ◇  ◇


4. 新たな就職氷河期世代を生まないために

新型コロナウィルス感染症による新たな就職氷河期世代を生まないために、政府や自治体に求められる施策を以下にまとめたいと思います。

① 雇用を守り労働者の生活を守る

雇用調整助成金の拡充や、みなし失業制度、持続化給付金制度の創設、貸付制度拡充などが立て続けに新たな施策が採られています。

リーマンショック後の対策でも一定の効果があった求職者支援訓練制度は生活保護に陥るのを防止するセーフティネットになり得ると考えます。2020年度から3ヶ年かけて進められる就職氷河期世代支援の枠組みの中で、訓練期間短縮やオンライン上での実施を可能とするなど要件緩和されています。新たに職を失った方々にも積極的に活用されるように広報するとともに、ソサエティ5.0の時代を迎えるにふさわしい訓練内容に見直していくことが求められます。


② 収束後こそ必要となる大規模な財政出動

中長期に及ぶ影響が生じると企業が判断した場合、採用意欲の減退を招きます。収束後こそ大規模な財政出動を図って景気の下支えに全力で取り組むことが必要となります。

すでに国はコロナ収束後を見据えて、1兆7000億円近くにのぼる「次の段階としての官⺠を挙げた経済活動の回復」施策として、「(仮)Go to キャンペーン事業」を4月末に与野党協力の下で補正予算を可決しています。この中で、観光、飲食、イベント、商店街の振興対策を講じています。これら施策が奏功すれば経済も回り始めるはずです。

自粛によって減少するGDPについて1ヶ月間で約6兆円(GDPの約1%)と試算する民間機関もあります。筆者は現在、就労支援と企業の人材確保支援の現場で働いており、事業者からは悲痛な声を聞き、学生や求職者の焦燥感も高まっていることを肌身で感じています。

緊急事態宣言が解けても、根本的に問題解消につながるワクチン開発などができるまでは、基本的にはソーシャルディスタンシングを行い、大勢が集まることもできない中では、事業継続を諦める事業者は今後も出続け、合わせて失業者も出てくることが予想できます。

働きたくても働き口がないということを回避するためにも、給付事業や補助事業は一過性のものに終わらず、必要であれば躊躇せず、断続的な支援策を講じていくべきだと考えます。


③ 新卒や若年者採用に対する雇用促進

万一、早期収束せず、数年間にわたり有効求人倍率が低迷するようなことになれば、新卒を中心に若年者に対する就労支援施策が求められることになります。20代のキャリア基盤を築く時期にある若年層に対して集中的に支援を行うことで、第二の就職氷河期世代が生まれることを防いでいかねばなりません。

2020度から始まっている就職氷河期世代向けの支援施策の中で、採用すれば10万円、採用後6ヶ月間定着すれば50万円を民間委託事業者に支払う成果報酬型就労支援事業が含まれています。この事業を新卒や若年層にも適用し雇用促進を図っていくことも必要になるでしょう。

また非正規雇用の一機能として考えられている「事前選抜機能」を踏まえると、採用前提型のインターンシップを認めていくなど、取りうる限りの労働施策が求められるようになります。


④ 職務類似経験に対する評価を制度化

子育てやNPO、自治会などの社会的活動は、これまで周囲の人から「人格的な評価」をされることがあったとしても、ビジネススキルとして評価されることはあまりありませんでした。しかし近年、調査研究によって、ビジネススキルは職務を通じてのみでなく、社会的な活動の中でも獲得することがわかってきました。

筆者の知人に新卒で思った仕事に就けず、建設現場で数年間、非正規の仕事に従事した後、WEBエンジニアに転身した方がいます。建設の仕事で培った1ミリ単位での緻密な作業をした経験が、WEBサイトを構築する際の、コーディング作業やプログラミングに生きていると聞きました。福祉事業所で非正規として働いてきた方が警備会社に正社員で転職し、介護の知見を生かして、セキュリティサービスの企画や営業に役立っているという話も聞きます。

現在、そうした考え方が職業相談や職業紹介の現場で活用されることは余りありません。「ジョブカード制度」は職務経験をカウンセラーが評価しますが、職務外の諸活動を評価する仕組みは構築されていません。もし、職務外経験の評価を制度化することができるならば、新たな就職氷河期世代を生まないだけではなく、すでにいる就職氷河期世代の支援施策としても効果的だと考えられます。

  ◇  ◇  ◇

コロナショックによる景気後退を早期に脱せず、収束後に有効な景気刺激策が講じられないようなことになれば、再び就職氷河期世代が形成されてしまいます。まずは早期収束させ、その後は適切な経済対策と雇用対策を進めなければなりません。

来年度予算策定に向けた骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)も策定が進められていますが、新たな就職氷河期世代を生み出さないための政策パッケージを期待したいと考えています。


藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX代表取締役
しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当
1978年生まれ。株式会社パブリックX代表取締役。京都大学公共政策大学院修了。
就労支援会社の経営、地方議員、政策ロビイング活動などを経て2020年4月から現職。
雇用問題、人事労務に関する著書・寄稿多数。




  


Posted by 藤井哲也 at 15:08Comments(0)就職氷河期世代活躍

2020年05月12日

コロナショックで、新たな就職氷河期を生まないために!【前編】



コロナショックで、新たな就職氷河期を生み出さないために、どのように私たちは考えて取り組んでいけば良いのでしょうか?
今回、言論プラットフォーム「アゴラ」に前・後編で取り上げて頂いた原稿に、加筆して、以下、私の考えをまとめたいと思います。

アゴラ掲載記事 
▶︎ 前編  ▶︎ 後編

  ◇  ◇  ◇




コロナ倒産危機、コロナ失業が連日のように報道されています。各地の助成金センターや自治体、商工会議所などの窓口には給付金や補助金に関する相談や申請の長蛇の列、パンク状態。景気動向指数も3月、4月と大幅に低下し、過去類を見ない急速な景気悪化となっています。

筆者が住む京都でも、経済界の重鎮・立石義雄前京都商工会議所会頭(オムロン名誉顧問)が新型コロナウィルス感染症により4月21日に亡くなられました。以来、地域の事業者が持つ危機感が高まった印象を受けており、5月大型連休中、普段は活気に溢れる市中心部の商店街も人を見かけることは稀でした。
今、急速に景気が悪化しており、新たな「就職氷河期世代」が生まれるのではないかという懸念が広がっています。実際、データをみても、旅館・ホテル業や飲食業など14業種で景気DIが過去最悪に陥っています。


帝国データバンク「TDB景気動向調査(全国)」を用いて筆者作成

就職氷河期世代。バブル崩壊後の日本では、失われた10年の中でたまたま不況期に社会に出た世代が、景気回復期を経てなお他世代と比較して、非正規雇用率が高く、平均所得が低いということが起きています。

政府推計によれば支援対象者は約100万人。2003年から現在に至るまで、筆者は就職氷河期世代支援に、就労支援会社の代表として、政治家として、政策ロビイストとして取り組んできました。

本稿では新型コロナウィルス感染症の影響で新たな就職氷河期世代を生まないために、どのような対策を講じていく必要があるのかを論じます。

1. 就職氷河期が生まれることによる日本社会への影響とは?

まず、就職氷河期が生み出す社会が被る影響、損失について触れたいと思います。

一つ目は、多くの政策予算が必要になることです。

就職氷河期世代が生まれることで、多額にのぼる社会保障関係費や雇用労働対策費が長期間にわたって必要となります。2003年に「若者自立挑戦プラン」に基づいて全国各地に若年者就労支援センターが設置し施策展開が開始されたことを皮切りに、2000年代後半には失業給付期間を終えた方などに対するセーフティネット施策として訓練受講給付金付き職業訓練事業(基金訓練、求職者支援訓練)や、雇用調整助成金事業などが始められました。こうした雇用対策事業に一定の財源を必要としてきました。

加えて、2020年度からは3ヵ年にわたる就職氷河期世代に対する集中支援期間として、施策推進に動き始めたばかりです。一億総中流家庭を築いてきた親世代も他界し、低貯金・低年金の就職氷河期世代がこのまま老齢期を迎えることによって、生活保護や医療費などの社会保障関連経費が増大することが見込まれることが関係しています。

仮に就職氷河期世代がこのまま高齢化することで、将来的には十数兆円から数十兆円規模の新たな財源が必要になるとも民間機関が試算しています。2019年現在すでに年間120兆円を超える社会保障給付費を予算措置していますが、厚生労働省の試算では2040年に190兆円程度の予算を必要とすることが見込まれます。この試算額に加え、氷河期世代のための財政措置が必要になるということです。

二つ目は、更なる少子化を助長することです。

就職氷河期世代の特徴は、生活が不安定であると言うことです。これは言うまでもなく非正規労働をしている方が増えているからです。また同一賃金同一労働の議論でも明らかになってきたように、正社員同様の職務をしていたとしても非正規労働者は低い賃金で働いています。

こうしたことの結果として、非正規労働者は不安定でかつ、低賃金、低貯金の生活をせざるを得ない状況となっています。

厚生労働省の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によれば、結婚しない理由や理想とする子どもを持たなかった理由として、常に上位にあるのが、「経済上の理由」や「結婚資金がないから」と言った回答です。結婚して家庭を安定させる見通しがないことや多くのお金を必要とする子育てに対する不安が、婚姻率を下げ、出生率を下げる大きな要因となっています。

就職氷河期世代は、たまたま第二次ベビーブーム世代を含んでいます。そのため、この世代の婚姻率が低くなり、もしくは晩婚化し、出生数が減ったことは、日本社会の今後の持続性に大きな影響を及ぼしたと考えられています。今回のコロナショックによって新たに就職氷河期世代が生み出されるとすれば、再び不安定な生活基盤の中で、結婚や出産に躊躇する若者が増えると考えられます。

そして三つ目は、中長期的にも経済活動を停滞させることです。

本来、就職氷河期世代である30代後半から40代後半は働き盛り。社会や会社の中では中核的なポジションについてバリバリ働いている方も多いと思います。また、それなりにビジネススキルも身につけ、生活基盤も確立し、老後まで期間もあることから消費性向が高く、経済活動の中心的な役割を担うことになっています。

もし就職氷河期でなかったとしたら、もっと多くの人たちが活躍し、もっとお金を稼ぎ、もっとお金を使っていたのではないでしょうか。社会や企業が高いポテンシャルを持つ人材を雇用し育成すれば、今頃、もっと社会の労働生産性は高まっていたかもしれません。世の中を変える新たなテクノロジーを生み出していたかもしれません。

地域に目を向けても、まちづくりの担い手となっていておかしくない就職氷河期世代は、目の前の生活でいっぱいいっぱいです。とても地域活動にまで協力することができません。

いま、新たな就職氷河期が生まれるとしたら、将来の経済活動を再び低迷させる要因になってしまうはずです。

  ◇  ◇  ◇

2 就職氷河期世代を生み出した背景・要因とは?

今回の新型コロナウィルス感染症の広がりは果たして、新たな就職氷河期を生み出すのか、を考えるにあたり、なぜ就職氷河期が生まれたのか、要因をまとめておきたいと思います。
 
要因1「新卒後、数年間の求人倍率が低い」

就職氷河期世代の多くの人が、生活基盤が不安定になっている理由は、20歳代、とりわけ新卒後の数年間でキャリアや技能形成が基盤を築けてこなかったことが挙げられます。20歳代で仕事の基本を身につけ生活基盤を築き、30歳・40歳代になってパフォーマンスを発揮していくとともに所得水準も上がります。
しかし、20歳代で定型的・低技能の仕事を転々としながらキャリアを歩んできた場合、労働市場における代替性が高く、生活基盤を十分に築くことができません。他方、正社員として働いている場合、時には入社数年後であっても新規プロジェクト推進メンバーに選ばれたり、重要な仕事を徐々に与えられたりして、キャリア開発を進めることができます。

過去の新卒有効求人倍率を見ると、倍率が下がるほど、多くの非正規労働者を生み出していることがわかります。非正規労働そのものが悪いというわけではありません。一定、最初から非正規労働やフリーランスとして働きたいという方もいるはずです。しかし、新卒時の就職においては、不本意にも非正規労働として生活のため働かざるをえないという人が大半だったように筆者は感じています。

例えば就職した年度やその前後だけ雇用環境が悪かったリーマンショック時は、20代前半でキャリアを挽回できる余地があったため、深刻な社会課題になっていないように考えられます。一方で、1990年代半ばから2000年代半ばまで続いた就職氷河期は、貴重なキャリア基盤を築く20歳代を非正規労働で過ごした人を多く生み出し、一度失ったキャリア形成の機会を挽回することは難しく、100万人前後ともされる方が不本意非正規もしくは長期無業者として、今に至っています。

■大学生の就職状況と有効求人倍率(大卒)

資料:文部科学省「学校基本調査」とリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」を用いて筆者作成


要因2「大手企業が採用を減らす」

不況期には大手企業が採用を縮小します。実は最初は非正規で働いていた方であっても本人の努力や、各種施策の結果、正規社員に転換している方が多くいます。正規転換の受け皿になっているのが中小企業やサービス産業です。

大手企業と中小企業との処遇格差は今更述べるまでもありません。「平成30年賃金構造基本統計調査」における平均賃金を見ても、大企業は男性387万円・女性270.7万円、中企業は男性321.5万円・女性244.4万円、小企業は男性292万円・女性223.7万円となっています。中・小企業では賞与を出すことができない事業者もいる一方で、大手企業は給与1、2ヶ月分を出すことができています。

『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(玄田有史編、2017年、慶應義塾大学出版会)には、景気が回復しても賃金が上がらない理由について各分野の学識者による分析が記されています。その中で、非正規の増加も一員として挙げられているものの、より大きな要因として、正社員の所得が上がっていないということが挙げられています。

考えられることは、不況時に雇用の受け皿となる中小企業の採用が増え、大手企業の雇用が縮小するため、平均で見ると所得が下がっているということです。世代全体の所得水準を押し下げている要因として、大手企業が採用を減らすことが、就職氷河期世代を生み出している一因と見て良いと考えられます。
合わせて、不況時の雇用の受け皿になるのは外食や物流などの産業が挙げられます。近年、観光産業が成長し受け皿にもなってきましたし、2000年代から国の政策として介護事業が本格化し、ケア人材の確保も取り組まれてきました。これら業種は国が公定価格を決定しますので、職員の給与を一気に上げることはできない状況でもあります。

産業構造の問題、そしてサービス産業の労働生産性の問題になりますが、そうした問題も就職氷河期世代の不安定な生活基盤の要因になっていると見ることができます。


要因3「処遇の下方硬直性がある」

わかりやすく言えば、不況時にも雇用や処遇が守られているため、好況時に新規採用や処遇アップもあまりなされないということです。日本社会の良い面ところだと思いますが(逆の見方もありますが)、不況時でもリストラは諸外国と比較して少ない傾向にあります。また、不況だからといって給与が下がるということもありません。処遇の不利益変更は原則できないからです。しかしそうした硬直性が、好況時には逆に賃上げ抑制力となって作用します。経営者や会社サイドから見て、処遇を下げることができないのなら、一時的に好況であっても将来下げられないので、処遇はできるだけ上げないでおこうとする考えはリスクマネジメントとして理解できます。

近年、正社員の給料がそれほど上がってこなかったのは、デフレの影響や管理職の削減なども考えられますが、将来に対するリスクヘッジ策として、従業員の処遇を好況時でも上げないということが挙げられます。


(後編に続く)
  


Posted by 藤井哲也 at 14:59Comments(0)就職氷河期世代活躍

2020年04月09日

「しがジョブパーク」就職氷河期世代支援担当になりました!



 4月1日付けで、「しがジョブパーク就職氷河期世代支援コーナー」の担当になりました。就職氷河期世代の方むけのセミナーやマッチングイベント、企業の方向けのイベントなどを、しがジョブパークで企画運営します。滋賀県内の求職者や事業者さんが支援対象となります。

 併設のキャリアカウンセリングコーナーや、ハローワーク、地域若者サポートステーション(サポステ)とも連携しながら、就職氷河期世代の方にとって実りあるキャリア形成、就職活動、転職活動ができるように精一杯がんばりますので、ご対象だと思われる方は「しがジョブパーク」までご連絡を頂戴できましたら幸いです。
 
 合わせて、同所の人材確保支援コーナーの担当も併任することとなりました。事業所様でも採用活動をしたいという場合は、学生や若年層、就職氷河期世代問わず相談に乗ることができますので、お気軽にご相談いただけましたら幸いです。(現在、ウェブサイト制作中です。アップされましたらご案内申し上げます)

  「しがジョブパーク」
   所在地:滋賀県草津市西渋川1−1−14 行岡第一ビル4F
   電話:077ー563ー0301
   開所時間:月曜から土曜(祝日・年末年始を除く) 9時〜17時
        ※土曜日はキャリアカウンセリングコーナーのみ開所
   人材確保支援コーナーのメール: jinzai@shigajobpark.jp







  

藤井哲也


  

  


Posted by 藤井哲也 at 11:24Comments(0)就職氷河期世代活躍